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第67話 狂わせたのは、お前の方だ

「そっか」  ぼそりと呟いた明琉は、安心したように柔らかく微笑んだ。  噛みついてくるどころか、あっさりと身を引こうとしている明琉に、胸がぎりっと音を立てた。 「なんで、そんな笑ってられんの?」  余裕綽々なその態度に、愛されているという自信が見え隠れする。  絡むように放った苛立たしげな声に明琉は、きょとんとした瞳をオレへと向ける。  どんなにオレが想ったって、天原の胸の中にいるのは、明琉で。 「お前のコトが何時まで経っても天原の心に引っ掛かり続けてる。いい加減にしてくれよ」  明琉にどうこう出きる問題じゃない。  明琉に当たったって仕方ない。  解っているのに、どうにも出来ない現状に苛立ちが(かさ)を増す。  前髪に指先を差し込み、ぐしゃぐしゃに混ぜた。  オレの心の中と同じように、あっちこっちへと髪が跳ね出る。 「お前のせいで、天原、セックス出来なくなったんだよっ」  口から零れた言葉に、疑心を孕む明琉の声が降ってくる。 「出来なくなった……?」  苛立ちを乗せた瞳を向けながら、明琉の疑問に答えてやる。 「お前を傷つけられる苦痛に、心を痛めた。お前を守れない自分の不甲斐なさに、心が折れた。全部、全部お前のせいじゃねぇか……っ」  そうだ。天原が責任を感じるコトなど、ありはしない。  逆なんだよ。  天原が、明琉の人生を狂わせたんじゃない……。 「お前が、天原の人生を狂わせたんだっ」  何もかにもが、明琉に起因する。  当たり前だ。  好きな相手を、大事にして守りたいと思うのは、普通のコト。  でも、自分の力を過信して、現実を見誤った。  守れなかったコトへの贖罪が、天原を追い詰めた。

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