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第68話 隙間など微塵もない

 そもそも出会わなければ良かったのだ。  たとえ出会ってしまったとしても、明琉がもっと強ければ良かった。  守ってもらわねば生きていけないような場所に、足を踏み入れたコトが間違いなんだ。 「間違ってんのは、お前じゃねぇかっ」 「そうかもね……。ごめんって謝りたいけど…無理だよなぁ」  相変わらずの困り顔の笑みのままで、軽く紡がれる言葉に、腹底がムカムカとする。  オレの言い草は、屁理屈もいいところだ。  取る必要のない責任を押しつけられているのに。  関係のない罪を押しつけられ、怒鳴られているのに。  八つ当たり以外の何ものでもないのに。  なんで、怒んねぇんだよ?  本当はお前のせいなんかじゃないだろ。 「天原、オレに会う気ないでしょ。オレ、疎まれてっから」  ははっと情けなく笑う明琉に、憂さ晴らしに冷たく当たってしまった自分の小ささが嫌になる。 「罪悪感で会えないだけだろ。それは、お前を好きだから、だろ」  今さらのフォローなど、意味がない。  わかっていても、天原の明琉に対する想いを誤解させたままには出来なかった。 「こんなもの消しちまえってさ」  左の外腿を撫でたオレは、はっと小さく息を吐く。 「オレは、勝手に入れて怒られたんだよ。お前との思い出だからだろ。オレのコトなんて、好きでもなんでもねぇから、…だろ」  諦めの境地に立つオレに、明琉は不思議そうな音で言葉を紡ぐ。 「違うんじゃね?」  声に向けた瞳には、申し訳なさげな顔の明琉が映る。 「……天原には、離れる時に消せって言われたんだ。でも、初めて必要とされて、初めて“好きだ”って思って、……その気持ちを消したくなくて」  言葉を切った明琉は、天井を仰ぐ。 「本当、お前の言う通り。未練がましいな、オレ……」  ははっと響いた明琉の笑い声は、乾いて掠れた。  なんだよ、なんなんだよ。  お互いに心の深い所で愛しやがって……。  オレの入る隙なんて、微塵もねぇじゃん。  同じ土俵など程遠い。  オレに出来るのは、(はた)から2人を眺めるコトだけだ。

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