69 / 97
第69話 未練がましく、情けなくて < Side 明琉
天原が羽雨とそういう間柄になっているのなら、羨ましいと思ったのは、本心だ。
羽雨と付き合えている天原も羨ましいし、天原を捕まえた羽雨をも羨ましく思った。
心の端っこが寂しいと訴えていたが、何年前の想いを引き摺っているのだと、自嘲する。
天原に愛されているのは、自分ではなくオレの方だと宣う羽雨。
何を言っているのだと、呆気に取られた。
オレと天原は、始まりすら迎えていないのに。
確かに、大事にしてもらっていた実感はある。
オレは、天原が好きだった。
でも、伝える前にオレたちは離れたんだ。
刺青を入れたという羽雨に、やっぱり天原の宝物は、オレではなくなったのだと思った。
でも宝物を傍に置けるほど元気にやっているのだと思えば、天原は幸せなのだろうと笑みが零れる。
なんで笑っていられるんだと、いい加減に天原を解放してやれと激昂する羽雨。
天原は、たぶんあの事件のせいでセックスが出来なくなったのだろう。
オレのせいだと言われても、それは否定できなかった。
オレが天原の人生を狂わせたのだと苛立つ羽雨に、何の弁明も出来なかった。
でも。
謝りたいと思っても、オレには手段がない。
オレは天原にとっての、目の上のたんこぶ。
黒歴史以外の何ものでもない。
天原に会いたいという想いより、罪悪感が勝ってしまう。
白いユリは、オレとの苦い思い出だから、勝手に入れた羽雨を叱ったのだろう、と。
羽雨の身を危険に曝してしまうのが怖いから、消せと叱ったに過ぎない気がした。
オレも消せと言われた過去がある。
それは、オレの身を案じてのコト。
……でも、消せなかったのは、大切にされた事実を無かったコトにしたくなかったからで。
いつまでも、こんなものに縋って。
いつまでも、過去の幸せにしがみついて。
羽雨の言う通りだ……。
未練がましい自分が、情けなくて、…嗤えた。
ともだちにシェアしよう!