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第70話 マルとペケ
“JOUR”の営業時間。
オレは、モニタールームで、ホールの様子を眺めていた。
それなりに地位も名誉も持っている上流階級の人間たちは、抑圧された日常から解放されるために、ここでひとときの癒しを得る。
「悪い。遅くなった」
モニタールームに入ってきたのは、1年前から一緒に働き始めた比留間だ。
比留間の後ろから見慣れない顔が2人、くっついてくる。
ざっくりと適当に切られた真っ黒な髪。
髪に隠れて見えない瞳は、一重で鋭さを持っていた。
170センチほどの比留間の横に立っている彼は、細く小さく見える。
その後ろ、しっかりと手を繋がれているコは、アッシュグレーの髪を、こちらも適当に、ざくざくと短くした感じだ。
見える瞳は真ん丸で、繋がれている手に安心しているのか、きょろきょろと周りを見回している。
そいつらの顔を眺めるオレに、比留間は居心地が悪そうに頭を掻いた。
「部屋に置いてこようと思ったんだけど、まだ精神的に不安定でね……」
言葉の通り、落ち着かない2人は、がっちりと手を繋ぎ、1人が比留間のシャツの裾を遠慮がちに摘まんでいた。
「こっちがマルで、そっちがペケ」
裾を摘まむコから、繋がっている手の先へと視線を滑らせる。
比留間が口にする単語に、きょとんとした視線を返す。
「潰した闇カジノの地下闘技場から引き上げてきたんだ。戸籍もちゃんとした名前もなくて……でも、呼び名がないのは困るだろ? あそこで使われてた呼称だけど、このコたちも呼ばれ慣れてると思うし……」
オレは別に、比留間を責めるつもりも、2人を連れてくるなと咎めるつもりもない。
「キャストにするの?」
綺麗系と可愛い系で、2人とも人気が出るのは間違いなさそうだった。
「いや。マルはボディガードとして傍に置く。こう見えて、すごく強いんだ」
わしゃわしゃと髪を混ぜる比留間に、マルは少しだけ首を竦めた。
「ペケは?」
ペケへと視線を移すオレに、マルは手を引き自分の後ろへと隠す。
「マルが、離れたがらない。2人とも俺が面倒見るしかないと思ってる」
裾を掴んでいるコを、ちらりと見やりながら、仕方ないという雰囲気を滲ませた。
でも、面倒くさいというよりは、満更でもなさそうな空気感だ。
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