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第71話 許可された

 隠されてしまったペケの顔が見たくて、肩越しに覗き込む。  マルの後ろから、きゅるんとしたペケの瞳がオレを見上げた。 「可愛い顔してんね?」  言葉にも、ペケは不思議そうに、こちらを窺うだけだった。  オレの視線に気づいた比留間が口を開く。 「ペケは、ボディガードにはなれないよ。…マルをやる気にさせるために贄だったんだ」  “贄”…? と首を傾げるオレに、比留間は言葉を足す。 「血の繋がりもなくて、見た目も似ていないんだけど、一緒に育った2人は兄弟なんだ。弟のペケを守るために、マルは戦ってた……」  比留間の顔が、苦虫を噛み潰したかのように歪んだ。  “お前が負けたらこいつを痛めつける”とでと言われ、マルは仕方なく振るいたくもない暴力を振るっていたのかもしれない。  マルは細い割にしっかりと筋肉がついている感じだが、ペケの身体はそうでもない。  少し強く握るだけでも、骨が折れてしまいそうな軟弱さだ。 「ボディガードがほしい訳じゃないよ。なんか可愛いなと思って。ねぇ、オレと一緒に居る気、ない?」  2人を連れて歩くのは、何かと不便なんじゃないかと思った…なんていうのは、建前で、ペケの姿がオレの庇護欲を(そそ)った。 「………ぎゅうしてくれる?」  あざとさすら感じる上目遣いでオレを見やり問うてくるペケに、一瞬、言葉の意味を考える。 「ぎゅう? …ぁあ、抱き締めて欲しいってコト? ははっ。ぎゅうでも、ちゅうでも、なんでもするよ」  両手を広げ、意思を示した。  おずおずと近寄ったペケは、オレの胸許に、ぽすんっと身体を預けてきた。 「はい、ぎゅうぅぅ」  潰してしまわないように、柔らかくペケの身体を抱き締める。  迷っていたペケの手が、オレの背に回り、シャツをきゅっと掴んだ。  へへっと小さく、はにかむような笑い声がペケの口許から漏れる。 「…これは、許可が下りたのかな?」  言葉にはされなかったが、オレの申し出が受け入れられたような動作に、首を傾げ比留間とマルを見やった。 「ペケのそんな嬉しそうな声、初めて聞いた。俺には、そんなの強情(ねだ)ったコトなかったし」  紡がれた比留間の声には、驚きの色が滲んでいた。  マルは、少し驚いたようにペケの後ろ姿に視線を向けていた。  その瞳には、少しだけ寂しさが宿っているような気がする。 「寝る時はマルと一緒。マルがボディガードの仕事をしている間は、オレと一緒にいようか?」  声に瞳を上げたペケは、もう一度オレの胸に顔を埋め、小さく頷いた。

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