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第73話 寂しい者同士

 必要のない自分。重荷でしかない自分。  でも、消し去るコトも出来ない自分。  オレも、感じてきたコトだった。 「らいあは、きっとマルだけ居れば良かったんだと思う……」  しゅんと肩を落としながら、寂しそうな音が紡がれる。  ペケの寂しさが、自分と重なった。  オレも、もう誰も必要とはしてくれない。  宝物の座は羽雨のもので、そこに居ていいのはオレじゃない。  オレの胸に埋まっていたペケの顔が、ふわりと上がる。  モニターから移した視線が、ペケの瞳とぶつかった。 「だから、めいるが一緒に居ようっていってくれて、嬉しかった」  悔しさに歪んでいたペケの顔が、はにかみの笑みを浮かべる。  オレは思わず、ペケを抱える腕に、力を入れた。 「ペケが生きる選択をしてくれて、良かった。マルに感謝だな」  マルが居たから、ペケがいる。  自分はマルのお荷物でしかないと言うペケだが、それがなければマルだって生きていなかったかもしれない。  お互いが、お互いを必要としていたんだ。  ペケの存在は、荷物以外にも意味があったはずだ。  寂しいもの同士が、傷を舐め合う。  それも、いいじゃないか。  寂しいから一緒に居たって、お互いを求めたって、いい。  言い訳だろうが、屁理屈だろうが、そこに存在意義を見つけ、生きいてくれたコトが嬉しかった。  比留間に求められたマルが、ペケの傍を離れてく。  ペケの心の真ん中が、その意思とは違うところで、寂しいと鳴く。  でも、その姿はマルには見せられない。  これ以上、マルの重荷に、なりたくないから。  天原は、ずっと前にオレから離れた。  気づかないフリをしていた事実。  羽雨は、オレではない天原の宝物。  それは、突きつけられた現実。  どこかで、理解はしていたんだ。  離れるという選択をした天原の心から、いつかオレが消えてしまうというコト。  オレとペケも寂しいもの同士で、温め合えばいいだけの話だ。  寂しがる心を少しだけ温めて欲しいと、オレは無意識にペケを求めた。  でも。 「ペケを全部取り上げちゃうのは可哀想かな。マルにはまだ、君が必要な気がする」 「ぼく、が?」  見詰め合う瞳の先で、ペケは不思議そうな顔をする。  ずっと大事に守ってきたものが、急に目の前から取り上げられてしまったら、マルはきっと、どうやって生きていけば良いのかわからなくなる。 「生きる(かて)だったんだと思うんだよね」  ペケは、不思議そうにオレを見上げ続けている。 「守るものがあると、それだけで生きていようと思えるでしょ。ペケが命を断たなかったのは、マルを独りにしたくなかったからでしょ?」  首を傾げるオレに、独りにしたくなかったのは本心だが、それは自分が生きるための言い訳だと思っているペケは、なんとも言えない顔をしていた。 「守るものが急に消えたら、きっと迷っちゃうと思うんだよね。だから、ペケはもう少しマルの大事なもので居続けた方がいいと思うんだ」  悲しげに見詰めてくるペケの瞳に、オレは言葉を足す。 「もちろん、オレもペケを大事にするよ。オレが独り占めするには早すぎるって思っただけだよ」  誰かを守るコトに慣れていても、必要とされる喜びを、マルは知らない。  比留間は守る必要なんてない。  “ボディガード”なんて、役割を与えるための飾りにしか過ぎない。  それは、一緒にいるための口実でしかない。  何もしなくとも、そこに存在するだけでいい。  マルという存在が、比留間を幸せな気持ちにしているコトがわかるまでは、ペケと引き離すのは良くない気がした。

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