74 / 97

第74話 言外の問い

 “JOUR”の開店時間まで3時間。  マルがペケをオレに預け、比留間の元へと向かった。  比留間がマルとペケを連れ帰ってから、2ヶ月。  ペケをここへ連れてくるのが、マルの仕事の始まりだ。  まだ寝惚け眼のペケは、オレのベッドに潜り込む。  シャツとスラックスに着替えたオレは、ベッドの端に腰を下ろす。  ギシリと軋んだベッドに、もそもそと動いたペケは、オレの腰に腕を回し、背にぴたりと額を押し当てる。  ―― コンコンッ  響いたノック音のあとに、声が続いた。 「羽雨だけど。入るよ」  ひっついているペケの身体を、寝かしつけるように、ぽんぽんっと叩きながら視線を扉へと投げた。  部屋に入ってきた羽雨は、一瞬躊躇する。 「…ぁ。タイミング、悪かった?」  決まり悪そうに顔を歪める羽雨。 「いや。問題ないよ。なに?」  首を傾げるオレに、羽雨はペケを視線で探りながら、“やるよ”とDVDを差し出してくる。 「新作、出たから……。欲しいかと思って」  差し出されたのは、“委員長の小鳥”シリーズの最新版だ。 「わ。マジで? ありがと」  受け取りパッケージを見詰めるオレに、羽雨は未だに訝しげな瞳をペケへと向けていた。  穏やかとは言い難い空気感に、オレはパッケージを見やりながら、口を開く。 「ちょっと前にね、比留間が拾ってきたんだ。1人は比留間のボディガードに就いてるんだけど、その間このコはオレが預かってんの」  腰に埋まるペケの髪を、わしゃりと混ぜる。 「預かってる…、ね」  ちらりとペケへと視線を飛ばす羽雨。  淀みのある羽雨の声色は、そこに邪な感情はないのかと、言外に問われている気がした。

ともだちにシェアしよう!