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第74話 言外の問い
“JOUR”の開店時間まで3時間。
マルがペケをオレに預け、比留間の元へと向かった。
比留間がマルとペケを連れ帰ってから、2ヶ月。
ペケをここへ連れてくるのが、マルの仕事の始まりだ。
まだ寝惚け眼のペケは、オレのベッドに潜り込む。
シャツとスラックスに着替えたオレは、ベッドの端に腰を下ろす。
ギシリと軋んだベッドに、もそもそと動いたペケは、オレの腰に腕を回し、背にぴたりと額を押し当てる。
―― コンコンッ
響いたノック音のあとに、声が続いた。
「羽雨だけど。入るよ」
ひっついているペケの身体を、寝かしつけるように、ぽんぽんっと叩きながら視線を扉へと投げた。
部屋に入ってきた羽雨は、一瞬躊躇する。
「…ぁ。タイミング、悪かった?」
決まり悪そうに顔を歪める羽雨。
「いや。問題ないよ。なに?」
首を傾げるオレに、羽雨はペケを視線で探りながら、“やるよ”とDVDを差し出してくる。
「新作、出たから……。欲しいかと思って」
差し出されたのは、“委員長の小鳥”シリーズの最新版だ。
「わ。マジで? ありがと」
受け取りパッケージを見詰めるオレに、羽雨は未だに訝しげな瞳をペケへと向けていた。
穏やかとは言い難い空気感に、オレはパッケージを見やりながら、口を開く。
「ちょっと前にね、比留間が拾ってきたんだ。1人は比留間のボディガードに就いてるんだけど、その間このコはオレが預かってんの」
腰に埋まるペケの髪を、わしゃりと混ぜる。
「預かってる…、ね」
ちらりとペケへと視線を飛ばす羽雨。
淀みのある羽雨の声色は、そこに邪な感情はないのかと、言外に問われている気がした。
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