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第76話 何とかしたい感情

「………っん」  寝惚けた声を上げたペケが、身動(みじろ)ぐ。  ペケは、オレを恋しいと想っている訳じゃない。  寂しいから、マルの代わりのオレと一緒にいるだけだ。  代わりなのだから、真摯に向き合う必要なんてない。  そう思うのに、擦り寄るペケに申し訳なさを感じてしまうのは、きっとオレ自身がこの中途半端な感情を何とかしたいと考えているせいだ。  オレになんて会いたくねぇかもだけど、このままで、良いとは思えない。 「ねぇ。天原、貸してくんない?」 「は?」  パッケージから羽雨へと遷移させた瞳に、難色を示す顔が映る。 「なんかさ、スッキリしねぇんだよ。この辺が、ずっとモヤモヤしてんだよね」  みぞおちの辺りを擦るオレに、羽雨は顔を顰めた。 「ちょっとさ、腹割って話したいんだよね」  飾りも建前もない言葉を放つオレに、羽雨の面白くなさそうな声が返ってくる。 「……貸すも何も、天原は物じゃねぇよ」  ぶっきらぼうに放たれた羽雨の言葉に、それはわかっていると、納得顔をして見せる。 「オレが会いたいって言ったって、天原は会ってくれないだろうし。ちょっと力貸して欲しいんだよね。…羽雨ちゃんだって、こんな中途半端なままは、嫌でしょ?」  問うオレに、羽雨の瞳に諦めの色が灯る。 「力貸してって…、具体的に何して欲しいのさ?」  疲れたように紡がれた声に、オレは悪巧みでもするような笑みを浮かべた。 「一緒に住んでるんだよね?」  首を傾げるオレに、瞬間的な息を飲んだ羽雨が口を開く。 「ん? …ぁあ。知ってたんだ」  言い訳でも紡ぎたそうな顔をしながらも、羽雨は開いた口を閉じた。 「郭遥から聞いた。…羽雨ちゃん家に行きたい」  オレの要望に、羽雨は顔色を曇らせる。 「待ち伏せすんの?」  嫌そうに問うてくる羽雨に、ニッと歯を見せ笑ってやる。 「そ」 「……わかったよ」  諦めるというよりは、半分呆れたような瞳で了解の意を伝えてくる。

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