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第77話 善は急げ

 善は急げだ。  片付けられるのなら、さっさと済ませてしまおうと、オレは腰を上げた。  愁実に話を通し、休みをもらう。  ペケに留守番をさせるつもりなどないオレは、出掛ける準備を始める。  寝惚けているペケに、オーバーサイズのオレのシャツを着せ、サスペンダーをつけ、キャスケットを被せ可愛らしく飾る。  小さく線の細いペケは、可愛らしい格好をさせれば、女の子に見えなくもない。  これなら、手を繋いで歩いても、なんら不自然ではないだろう。  ぽやんとオレを見上げるペケの手を引き、羽雨の家へと向かった。  どでかい高層マンションを、ぽかんと見上げる。 「ふぇえ。稼いでんね?」  さすが羽雨ちゃんだ、と感心(しき)りなオレ。 「天原と同じ反応すんのな……」  大した感動もなく、ぼそりと声を放った羽雨は、淀みなくエントランスを抜けていく。  羽雨の後ろにくっつき、27階の部屋に着いたオレたちは、この後の予定を話す。  あと1時間も経たずに、天原も帰ってくるらしい。  3人掛けのソファーに腰を下ろしたオレの隣に、ちょこんと座ったペケは、話しに興味がないようで背を預けてくる。  L字コーナーの先に、羽雨が腰を据えた。 「羽雨ちゃん、隣の部屋に居てもらっていい?」  オレの提案に、羽雨は意図を読み取ろうと見詰めてくる。 「羽雨ちゃんいない方が、本心、話してくれそうじゃん?」  首を傾げるオレに羽雨は納得したように、頷いた。 「そっちの部屋でいいよな」  羽雨は、リビングに併設されている小上がりのような3畳ほどの和室を顎で指し示す。 「うん。いいんじゃないかな。ペケもな?」  オレに背を向け、寄りかかっているペケの頭をくしゃりと混ぜる。  首を仰け反らせオレを見上げてくるペケの瞳。  音にならない言葉で、“居なくならないよね?”と、問われた気がしたオレは、口角を上げて見せる。  オレの笑みに安心したペケは、小さく頭を縦に振る。 「わかった」  了承の意を示したペケは、くるりと身体を返し、オレに抱き着いた。  今のうちにと言わんばかりに甘えてくるペケの頭を何度も撫でる。 「ここまで甘やかさなくてもいいけど、不安そうにしてたら、手ぇ繋いであげて欲しいんだけど…?」  お伺いを立てるように言葉を紡ぐオレに、羽雨は小さく首を縦に振るった。  ―― ガシャンッ  玄関の鍵が開けられる音が部屋に響いた。

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