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第82話 人の気持ちは操れない < Side 羽雨

 玄関の扉が開く音に、小上がりのような和室に追いやられた。  リビングとの間には、襖が1枚だ。  そこに耳をつければ、話は一語一句漏らさずに、聞けるだろう。 「天原が好きなのって、誰?」  聞きたくもないのに届いてしまった真っ直ぐな明琉の声に、オレは両手で耳を塞いでいた。  フラれるとしても、又聞きのようなこの状態で、終止符を打たれるのはいただけない。  せめて、面と向かって、顔を合わせて切り捨てられたかった。  新作の“委員長の小鳥”シリーズを届けに行ったオレの目に飛び込んできたのは、明琉のベッドで眠るペケ。  預かっているだけだという明琉に、胸がざわついた。  預かるというほど幼くもないペケにも、明琉の仕草にも、不自然さを感じた。  明琉の仕草には、“預かる”とは別に、“可愛がる”という雰囲気が含まれていた。  ……明琉に好きなコが出来てしまったら、天原の想いはどうなるのだろう。  天原を想うと、胸がキリキリとした痛みを覚えた。  天原が好きなのは、オレではなく明琉だと何度諭しても、その言葉が飲み込まれるコトはなかった。  事実、オレが天原のコトを好きなのは認める。  感情が漏れてしまっているのも、否めない。  だけど、どんなにアプローチを重ねても、オレが天原の瞳に映るコトなどない。  ……人の気持ちなど、操るのは不可能だ。  明琉が、ペケに惹かれてしまっても、それを阻止する術などない。  でも、天原のコトはどうするんだよ……。  懸念をそのまま問うたオレに、明琉は天原を貸せと宣った。  貸せなんて言われても、天原は物じゃない。  感情がある人間は、簡単に貸し借りできるものじゃない。

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