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第83話 気づけない寂しさ

 物じゃないのだからと渋るオレに、明琉はそんなコトはわかっていると、したり顔をして見せる。  胸のモヤモヤを晴らすために、天原と腹を割って話をしたいと告げられた。  そこまで言われてしまえば、オレは折れるしかない。  ……怖かった。  怖いから、なにか理由をつけ、屁理屈を捏ね、明琉と天原の再会を邪魔したかった。  だけど。  いつまでも中途半端なまま、なあなあに濁された関係に気持ち悪さも感じていた。  そこには、天原に会いたいという明琉に、手を貸すという選択肢しか残されていなかった。  襖の前で、耳を塞ぎ立ち尽くしていた。  ふと、シャツの裾が、くんっと引かれる。  感触に向けた瞳の先には、オレを見上げるペケの姿があった。  黙ったままにオレのシャツを引き、リビングに続く襖の傍から、対角線の遠い位置へと移動させられた。  オレの両手首を掴んだペケは、そっと耳を塞ぐ手を剥がす。 「ここなら、聞き取れないよ」  背伸びしたペケはオレの耳許に唇を近づけ、内緒話でもするように小声で囁いた。  襖へと向ける視線。  確かに、ぼそぼそと声は聞こえるが、内容を聞き取るコトは出来ない。 「そうだね……」  その優しさを褒めるように、ペケの頭に手を置き、肩の力を抜いた。  部屋の角に背をつけるように腰を下ろしたオレに、ペケも隣に腰を落とす。  ペケは、当たり前かのようにオレの肩に頭を預けてくる。  ペケもペケで不安なのかと、口を開いた。 「なぁ。お前はどうすんの? あの2人がより戻したら……」  言葉に、きょとんとした空気が返ってくる。 「どうもしないよ。寂しいもの同士が、寂しいって泣く心の端っこを慰めあってるだけだもん」  何でもないコトのように紡がれた声が、少しだけ悲しそうに歪んでいた。

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