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第84話 全力の強がり

 襖が、するりと開く。  勝ち誇った顔で仁王立ちする明琉が、そこにいた。  明琉の姿を見やったペケは、満面の笑みを湛え、駆け寄った勢いそのままに、ぼふんとその胸へと飛び込んだ。  抱き着いてきたペケを自慢する明琉の空気に圧され、天原は黙ってその姿を見詰めていた。  オレに向け、話を聞いていたかと問い掛けてきた明琉に、“盗み聞きはしていない”と返すペケ。  オレは、初めから2人の話を聞く気など、なかった。  出来るコトなら、オレの知らないところで話を進めて欲しかった。  天原の本心など、知りたくない。  切り捨てられてしまう未来など、来て欲しくなかった。  ぼそぼそと何かを呟き、“邪魔者はいなくなる”と宣言した明琉は、ペケを連れ部屋から出ていった。  まるで台風のように、引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、あっさりと帰っていく後ろ姿に、オレは唖然と玄関へと続く扉を暫し眺める。 「羽雨。ごめんな……」  脈絡もなく謝罪を述べてくる天原に、視線を向けた。  オレの瞳に映るのは、申し訳なさそうな情けない笑みを浮かべた天原の顔。 「逃げてばっかじゃ、ダメだよな……」  オレの視線に堪えられなくなったかのように顔を俯かせた天原は、バツが悪そうに頭を掻く。  小上がりの角で丸まっていた身体を伸ばし、立ち上がった。  天原のいるリビングまでの数歩を、必死の思いで歩く。  折れてしまいそうな心を懸命に奮い立たせた。  天原が座るソファーに、横向きに腰を下ろした。  最後かもしれない天原の横顔を、真正面に捉え、目に焼きつける。  オレはこれから、フラれる。  でも、弱さは見せたくない。  泣き崩れて縋るような女々しいコトは、したくない。  傍に居てくれと縋ったところで、天原の心は、ここにはない。  脱け殻で満足できるほど、オレは寡欲(かよく)じゃない。 「オレなんて要らない……、鬱陶しいっていうなら、消えるよ」  余裕綽々の顔で、さらりと声を放った。

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