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第87話 胸を震わす言葉

 予想だにしない天原の告白に、頭が回らない。 「明琉のコトをいいだけ振り回して、怖くなって逃げ出した俺に、恋をする権利なんてない。お前に愛される資格なんてないんだって、お前の想いを受け取るのを躊躇った。だけど、離れ難くて……誤魔化してた」  天原の手が、オレの頭を柔らかく撫でる。  現状が理解できていないオレは、ぽかんと天原を見詰め続けた。 「俺が、曖昧に濁し続けていれば、お前はいなくならないって高を括ってたんだ。お前の優しさに甘えてた。……狡くて卑怯だよな」  申し訳ないと頭を下げた天原は、顔を俯かせたままに、言葉を足す。 「……“消える”なんて言われて、胸が潰れた。…だから、“要らないなら消える”なんて言うな。お前がいなくなったら、俺、生きてけねぇよ」  落ち込み肩を落としたままに紡がれる声は、弱々しく生きている意味がないと嘆きを纏う。 「もう、間違えねぇから……。心を欺くような嘘は吐かない」  すっと顔を上げた天原の瞳が、オレを見詰める。 「俺は、お前が好きだ」  真摯に吐かれた声に、胸が震えた。  天原に、ぐっと抱き竦められる。  オレの肩口に顔を埋めた天原は、情けない声で訴える。 「傍に居てくれよ。意地でも離れねぇんだろ? 俺に寂しい想いさせないんだろ?」  上から目線の言葉を吐きながらも、その音はオレに縋りつく。 「明琉を好きになったコト、まだ過ちだと…償うべき罪だと思ってる……?」  未だに明琉への罪悪感を抱えているのなら、オレを好きだという気持ちも、何かのきっかけで、罪の意識に摩り替わってしまうかもしれない。  そんな不安の中では、天原の気持ちを手放しでは喜べない。  オレの肩で顔を隠したままの天原は、小さく首を横に振るった。 「もう、明琉に罪悪感はねぇよ。過去の…、逃げ出した自分は許せねぇけど」  好きだという想いに、過ちは存在しない。  その感情は、罰せられるべき罪じゃない。  その想いを抱え、どう行動するか、だ。  その行動が人を傷つけてしまったのなら、謝らなければいけないかもしれない。  でも、その好意自体に罪はない。 「お前を好きになったコト、過ちだなんて思わねぇ。お前から、逃げたりしない。しっかり俺の手綱、握っとけ」  オレの両手を掴んだ天原は、その腕を自分の身体に巻つける。  何があっても、放すなというように。 「わかった」  天原の背に回した手で、シャツをきつく握り締めた。

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