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第88話 バカ正直な結果報告
手にした温もりを堪能するように、暫くの間、抱き締め合っていた。
ブルッとオレのポケットの中で携帯が震えた。
何かの通知であろうと、オレは無視を決め込む。
天原の指先がオレのポケットを探り、携帯を取り出す。
オレを抱き竦めながら、背中側でそれを操作しているであろう雰囲気は感じていた。
別に見られたところで何の支障もないオレは、天原の動作を放っておいた。
ふと腕を緩めた天原に顎を取られ、顔を上げさせられた。
見上げるオレの顔に、天原のそれが近づく。
半分だけ閉じた目蓋の隙間から、オレを刺すような視線を寄越す瞳。
雰囲気に流されるままに、オレは目蓋を閉じる。
ふにゅりと唇に感じる柔らかな衝撃は、オレの胸を熱くさせる。
―― カシャッ
響いた音に、目を見開き身体を反らせた。
目の前の天原は何事もなかったかのように、携帯の画面を見やる。
「我ながら上出来」
画面を見詰めながら満足そうに呟いた天原が、それをオレに見せてくる。
そこに映し出されていたのは、天原とオレのキスシーンだ。
「なっ……何、撮ってんだよ?」
恥ずかしすぎるその画像に、携帯を引ったくろうとするオレの手は、簡単に躱され、スカっと空を切る。
天原は、頭の上に掲げた携帯の画面を見やり、何やら文字を打ち込みつつ、声だけをオレに返してくる。
「明琉から結果報告しろって言われてんだよ。文字より写真の方が説明省けんだろ」
手繰り寄せようと腕を掴んだところで、天原の腕力には敵わない。
「バカ正直に、そんなの送らなくていいって」
オレの抗議は意味を成さず、天原の指が送信の処理を完結させた。
役目を終えた携帯が、オレの手の中へと返された。
「自慢してぇの。あいつ、羽雨のファンだろ。羽雨は俺のもんだぞって釘指しとかねぇと、だろ?」
明琉が“委員長の小鳥”シリーズをコレクションしているコトを知っている天原は、にたりと自信満々の笑みを向けてくる。
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