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第92話 天原だから

 携帯を取り出した天原は、オレにレンズを向けた。  薄く閉じた瞳でレンズを見やりながら、(なまめ)かしく玩具を舐め上げた。 「視姦って、興奮すんの?」  レンズをオレに向けたままに、ベッドの側に寄ってきた天原が、画面越しに問うてくる。  ちらりと画面から外れた天原の視線が、(じか)にオレへと投げられた。 「オレは見られるの、興奮するよ……」  はっ、と熱の籠る吐息が零れた。  見詰めているのが、天原だから。  天原の視線だからこそ、羞恥が興奮に摩り替わる。  隙間から下着の中へと手を突っ込み、本能の赴くままに、いやらしく自分のペニスを撫で上げた。  天原は、どこか上の空で、本当に次回作の構想でも練っているかのような雰囲気だ。  まだまだ甘いと感じたオレは、玩具を放り、下着の中から引き出した手で、転がっているローションを引き寄せた。 「オレ、本当はネコになりたかったんだよね……。でも、そっちの魅力、足りないみたいでさ」  色気もなにもなく無造作に下着を脱ぎ、再び足を開く。  見せつけるように、掌にローションを垂らし、腹の上で裏返す。  つぅっと1本の糸のように、中指の先からペニスに向けて粘液が垂れ落ちていく。 「そうか?」  画面を見やりながら伸びてきた天原の手が、オレの頬に触れ、顎を擽る。  俯いていた視線を持ち上げ、レンズを見やる。  オレの唇をなぞった天原の親指が、隙間から口腔内へと入り込む。 「ぁ……ふ、………」  弾力を楽しむように舌を捏ね回す親指に、ぞわぞわとした痺れが身体を駆けた。  異物の侵入に、唾液が溢れる。  閉じられない唇は、溢れる液体を垂れ流す。  ぐちゃぐちゃと口腔内で反響する音に、耳奥が、ぞわりと粟立った。  潤んでくるオレの瞳に、ちらりと投げられる天原の視線が、じりっと心を炙る。  ずるりと引き出された天原の親指は、唾液の糸を引き、離れていく。  物足りなさに、腹底が疼いた。 「俺は、その顔、たまんないけどな?」  涎塗れの親指に、愛おしげに唇を押し当てた天原は、にたりと笑んだ。  もっと…と強情るような瞳で天原を見詰めていたオレに、獣染みた雄の色香が降ってくる。  ぞわぞわとする痺れが、身体を震わせた。  誰かに握られたのではないかと思うほどに心臓がきゅっと縮み、反動のように激しく脈を打つ。

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