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1-1-3 RE:START?
side:ウェルナート
目が覚めると学園の寮のベッドの上だった。
寝汗が凄い。
状況が掴めないが、取り敢えずシャワーを浴びないと気持ちが悪い。
さっきまでのあれは何だったのか。
夢だと思うには生々し過ぎるような…。
シャワーを浴びる為に着衣を脱いだら下着が汚れていたので、あの光景を俺が見たのは間違いないようだ…夢だとしても。
一刻も早く置かれている状況を把握したい。
シャワーを終えると取るものも取らず学校へ急ぐ。
…さすがに早く来過ぎたようで、殆んど生徒が居ない。
念のため、とリシェが居そうな場所を探してみた。
リシェは直ぐに見つかった。
伊達にリシェとのイベントを何度も迎えたわけではない。
運動場の片隅で剣の素振りをするリシェ。
俺を殺すために?とも考えたが、あれが実際あったことだとしたら、今は起き上がることすら出来ないんじゃないかと考え直す。
一刻も早く現状把握したいのに、拒絶が怖くて声をかけるのを躊躇ってしまう。
不意に振り返ったリシェが俺に気付くと、弾かれたように恥ずかしそうに赤面して素振りをやめてしまい、すぐに歩み寄って来た。
「おはようございます、ウェルナート様。拙いものを見られて恥ずかしい限りです…。」
再び赤くなって恥じらってしまうリシェ。
剣振っていたのを見られたのが恥ずかしかったのか。
どうやらあれは夢で確定らしい。
いや、もしかすると『あったかも知れない世界』というやつじゃないか?
忘れそうだがここはゲームの世界だ、多分。
俺の可能性である世界を垣間見たのかもしれない。
可愛い顔で笑顔を浮かべて瞳が覗き込んで来る。
あんな夢を見たせいで、汚され泣き叫んでいたリシェの姿が視界に重なって混じる。
「リシェは努力家だからな。」
ようやくそれだけを口に出来た。
どうしたんだろう、リシェが驚いた顔をしている。
「どうかしたか?」
「え、えーと…その、名前…」
「名前?」
「あの…」
遣り取りしているとようやくリシェが変な顔をした理由に気付く。
そうだった!
『リシェ』と呼ぶのはゲームでは『ヒロインが恋愛ルートに入ると親密になり呼んでいた愛称』だ。
つまり現状ではヒロインだって呼ぶ権利が無い。
ショッキングなシーンを見た反動でうっかりゲーム呼びしてしまっていた。
「…その……可愛くて、ずっとそう呼びたいと思っていた、心の中で勝手にそう呼んでいたんだ。済まない。嫌ならもう呼ばないから…」
一度嫌われたせいで、さすがに慎重になってしまう、探り探りだ。
言い訳にはかなり苦しい。
「嬉しいですよ。その呼び方をしていたのは死んだ両親だけだったので。私は長男なので、兄が出来たような擽ったい感じがします。」
いつもの迷いのない愛くるしい笑顔が向けられる。
「でも可愛いと言うことは、私はまだ子供なんですね…。背も伸び悩んでいて…。」
溜め息を吐かせてしまった。
やはりここは言うべきか?
「俺はリシェの事が好きだ。子供にこんな好意は向けたりしない…」
胸が苦しくなる。
『俺に夢と同じ事を繰り返させないでくれ!』と。
夢と同じ様な事しか言えない自分が歯痒くなる。
そう、きっと答えも同じ…。
「あの……ご免なさい…」
聞きたくない。
襲ってしまえと夢が背中を押す。
リシェに手を伸ばしたら、振り払われた。
振り払った事に何故か驚いたようなリシェ。
ほら、もう嫌われている。
だったら……。
素早く右腕を伸ばしなおして後頭部を捕らえる。
もう片腕で腰を抱き寄せて、驚きで僅かに開いた唇に舌を侵入させるキスをした。
「んっ…!?」
驚いた表情で固まるリシェ。
目が合うと赤くなって目を閉じてしまう。
時間を掛けてねっとりとリシェの口内を味わう。
「んっ……ふぅ…」
口内で呼気が乱れ始めて、身体が小さく震えている。
この唇が離れたら侮蔑が同じ唇で発せられると思うと怖くてなかなか離せないでいた。
どれぐらいそうしていただろう、意を決して唇を解放する。
ずっとキスだけでは足りない。
「は…っ…はぁ……」
リシェは真っ赤な顔で涙をこぼしながら、強めに荒く呼気を繰り返している。
身体は力無くグッタリと俺に預けられている。
拒絶の言葉はまだ出ない。
リシェをお姫様抱っこしてしまい、俺の部屋へ攫う。
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