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第2話 憧憬

 足立とは高2になった今年、初めて同じクラスになった。  高い鼻に(まなじり)の切れ上がった目元が印象的で、知的な男。  高1の頃から目立っていて、ファッション誌でモデルでもやっていそうな爽やかさがあったし、いま流行りの俳優の誰々に似ているだとか、そんな話もチラホラ出ていた。  同級生からだけじゃなくて、先生や保護者からも信頼されているような安定感があって。  もし生まれ変わるとしたら、あんな外向的な人になりたいと思ううちに、いつからか足立のことが無性に気になるようになってしまった。  そして、こんな噂も耳にした。  足立には年上の恋人がいるらしい。その人の性別は、男。  1度だけ、それっぽい人を見かけたことがある。  高1のとある冬、正門の前に停まっていた赤い車に足立が乗り込むところをたまたま目撃したのだ。  その時運転席にいたのは、メガネを掛けた、見た感じ27、8歳くらいの温和そうな顔立ちの男性だった。  たったそれだけで恋人だと決めつけるのは良くないけど、カップル特有の雰囲気が出ていた気がして、噂は本当なんじゃないかと疑っている。  古文の先生や隣の席の生徒にバレないように、古文ノートとは別の小さなノートを出して、そこに思いついた新たなシチュエーションを書いていく。  高嶺の花の男に、女の子は声を掛けられ、一緒に下校することになる。  女の子は後日、高嶺の花が違う女の子と歩いているところを見て、胸が痛む。  そこに現れたのは、幼なじみでハンドボールが得意な快活な男。昔から何かと、女の子を気遣ってくれる……  ノートの上で思うままにシャーペンの先を滑らせていると、さっき周りに笑われたことなんて気にならなくなった。  俺の趣味は、物語を書くことだ。  創作はいくらでも、自分の思い通りにできる。現実では難しいことでも、妄想だったらいくらでも都合よくできる。そんな気軽さが、小さなころから好きだった。  将来、小説家になろうなどと(たくら)んでいるわけではないが、自分が自分でいられる、ストレスなく過ごせる穏やかな時間になるのだった。 「もう授業終わりましたけど」  声を掛けられた俺は素早く両手でノートを隠し、(はじ)かれたように顔をはね上げた。  雄飛(ゆうひ)の顔があったので、安堵のため息を吐く。 「なんだ、びっくりさせないでよ」 「やっぱり当てられちゃったな。まぁ、今日はまだマシな方だったよ」  馬鹿みたいな声を出したことへのフォローをしてくれたのだろう。  雄飛は優しい。どんなに情けない姿を晒そうとも、いつも俺のことを気遣ってくれるのだ。 「どうやったら緊張しないで人前で発言できるようになるのかなぁ」 「数をこなして慣れるしかないんじゃない? というかどうしてそんなに緊張するのか俺には理解できないな」 「そりゃあね、雄飛には一生分からないだろうけど」  なんてったって雄飛は子供の頃から目立っていたし、中学の時にはハンドボール部のキャプテンを務めていた。  今も続けているが、2年生のリーダーは雄飛だし、時期キャプテン候補だとも言われている。そんな人に、俺の気持ちなんて分かるはずもない。

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