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第3話 雄飛
「まぁ、史緒 のその見た目と声で元気よく答えられてもイメージ崩れるような気がするし、そのままでいいんじゃない?」
真剣に悩んでいるのに、と唇を尖らせながら、自分の容姿を再確認してみた。
天然の蜂蜜色の髪の毛に、パーマをかけたかのような毛先のクルクル。もちろんこれも天然だ。
常に困ったように下がった眉、への字の口元、おまけに小柄で線が細く、声色までか細い。
目の前の親友は、いかにも自分に自信のある、きりりとした眉と目つきをしている。周りからの信頼も厚いし、俺にはないものをたくさん持っていて羨ましくなる。
創作ノートの文字を追っていた雄飛は、目を瞬かせた後でふふっと笑った。
「幼なじみでハンドボールが得意な快活な男って、俺のこと?」
「うん」
創作をしていることは2人だけの秘密だ。そして雄飛は度々、こうして勝手にモデルにされてしまう。だけど決して怒らないし、むしろ嬉しそうにしてくれる。
両親は小学生の頃に離婚をしたので、俺は母子家庭で育った。
離婚した当時の母は朝の9時から夜の9時まで働いていた。今考えると相当なブラック労働だ。
今は転職してデザイン事務所で働いているけれど、そこそこ忙しくしていて、未だに週の半分くらいは夜遅くに帰ってくる。
創作や妄想が好きになったのはこの環境の為だろう。本を読むのも好きだし、紙とペンがあれば、いくらでもいい気分になれる。
それに雄飛もいてくれるので、寂しくはない。
他人には口に出して言えない、ちょっと曖昧な関係だけれど。
ふと窓の向こうの景色を見た雄飛は俺に尋ねた。
「そういえば史緒、今日傘持ってきた?」
「傘?」
「帰り、雨降るかもよ」
スマホの天気予報を見せられる。朝は曇りマークだったのに、午後から雨で雷も鳴るらしい。
教室の窓から見える空に広がった灰色の雲は、時間の経過と共に徐々に厚みを増していた。
「もう降りそうだね」
「どうせ持ってきてないんだろ? 俺の傘貸してやるよ」
「いいよ。家まですぐだし、急いで帰るから」
「んな事言って、前に降られて風邪引いたんだろ。お前は黙って俺の言うこと聞いとけばいいんだよ」
優しいけれどどこか険を含んだ声色に怯 んでしまう。
心配してくれるのは本当に嬉しいけど、たまにこういう瞬間が訪れる。俺の自由を奪うような発言をされると、少しだけ心にチクッと針がささるのだ。
だから俺はそれを悟られまいと、わざと笑んでみせる。
「あ、違う。俺、折りたたみ傘持ってきてたんだった。だから大丈夫だよ」
本当は持ってきていないけれど。
雄飛は「そっか。なら良かった」と胸を撫で下ろした。
雄飛には本当に感謝をしている。
この間、風邪をひいて寝込んだ時には付きっきりで看病をしてくれたし、小学生の頃も中学の頃も、人付き合いが苦手な自分のそばにいてくれた。
『史緒は俺がいないと何も出来ないな』と言われたこともあった。
確かに俺は、雄飛がいないと何も出来ないのかもしれない。だけど笑顔でそう言われる度、靴の中に小石が混じったみたいなちょっとした違和感を感じずにはいられなくなる。
自分がこんな気持ちになっているなんて、きっと雄飛は知らないけれど。
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