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第4話 暗然

 そんな俺の親友の雄飛は、足立とはまた違った意味での華やかさがある気がする。  スポーツマンらしく、短髪でサイドを刈り上げていて、光にあたると茶色に透ける髪がいつも綺麗だなと思う。 「ちょっと読ませて」 「うん、いいよ」  次の授業は理科室で行うので、目を通しながら移動したいらしい。歩きながらノートを見て、時折「へぇー」と声を漏らしている。 「このキャラ、名前は決まってんの?」 「ううん、まだ。『ユウヒ』にしようかな」 「えぇーマジで? まぁ、別にいいけどさ」  満更でもない雄飛を見てつい顔がほころんだ。  そんな時、廊下の角を曲がったところで、雄飛は向こうから来た生徒と真正面からぶつかってしまった。  反動で落としてしまった教科書やペンケースに紛れて、俺の創作ノートも遠くへすっ飛んだ。「ごめんごめん」と雄飛はぶつかった相手に謝っている。  ハッとして振り向くと、ある人物と目線がかち合ってしまった。  足立だ。いつの間にか俺たちの後ろを歩いていたらしい。  彼の足元に転がったノートは、真ん中あたりで開かれた状態だった。そこに書かれているのは、俺がせっせと妄想した言葉の数々。  足立はノートを開いた状態のまま拾い上げ、俺へ手渡してきた。 「はい」 「あっ、ありがとう!!」  またしても応援団ばりの声を張り上げ、俺はひったくるようにノートを取り上げた。  即座に背を向け、早歩きでその場を去る。  (見られた? 見られてないよな? ほんの一瞬だったし、大丈夫だよな?!)  創作していることがバレたらなんて思われるのか、考えただけで恥ずかしくて耐えられなかった。  陰キャな奴って思われる。いや、もうすでに思われているのかもしれない。  早歩きの俺に追いついた雄飛が「勝手に置いてくなよぉー」と抗議の声を上げた。  ……変に、思われただろうか。  理科の授業を受けながら、俺は右斜め前の足立の黒髪を見つめながら思う。  いや、変だとか変じゃないとか、そんな感想を抱く前に、俺のことは眼中に無いのだ。  足立はびっくりするくらいに無反応だった。古文の授業中も、さっきも。つまりそれが答えだ。そこらへんに生えている雑草が一体どんな名前なのか、それくらいにどうでもよく、無関心なのだ。  (雑草と同じにされてたら、さすがに凹むけど……)  俺はまたこっそり、授業を聞いているフリをして妄想に更けるのだった。  放課後、部活へ繰り出す雄飛とさよならをして、1人下駄箱の方へ向かう。  雨が降る前に、早く帰らなくては。  自宅までは歩いて30分。自転車を使えばいいのだけど、理由があって徒歩通学にしている。  下駄箱に履いていた上履きを入れて、スニーカーを出したところまではいつも通りだった。だけどその直後、予想していなかった事態が起こる。 「花巻」  手に持っていたスニーカーをボトッと床に落としてしまう。  下駄箱の影からひょこっと顔を出したのは、紛れもなく足立だった。

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