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第7話 解決

 梅雨はまだ明けない。  湿気の日々を快適に過ごすには一体どうしたらいいのだろうと、今朝、この猫っ毛の髪の毛をセットする際に憂鬱(ゆううつ)になっていたことが遥か昔のことのように思えた。  紫陽花の花が雨に濡れて光ってきれいだ。  そしてすぐ隣には、湿気の影響を全く受けていない、艶のある髪の毛の持ち主の足立がいる。  足立と歩幅を合わせることになるだなんて、さっきまで想像もつかなかった。 「花巻の家って、この辺?」 「うん、駄菓子屋の近くなんだけど」  母親に負担をかけぬよう、家から無理なく徒歩で通える高校にしたのだ。  一体いつから建っていたのか分からない古い駄菓子屋の名前を出すと、足立もその場所は知っていたようで「近いな」と笑ってくれた。  傘は大きめだけれど、どうしても体の片側だけ足立の腕に触れる。それがちょっと面映(おもは)ゆい。  (何か、何か喋らないと……)  少々の沈黙が流れ、焦ってしまう。  俺は言わずもがな、人見知りである。  緊張のあまり声が出せない。何か言わないとと思っていたら、足立が先に切り出してきた。 「俺さ、ずっと花巻に避けられてると思ってたんだけど、違う?」  自嘲(じちょう)するような口調に、俺はアスファルトに落とした目をしばたたかせる。  どうして? ずっと憧れの存在で、仲良くしたいって思っていたのに。  それにそれはこっちのセリフだ。  足立にとって俺は空気のような存在なのだと思っていた。好きとか嫌いとかの以前に、目に入っていないのかと。 「そ、そんなことは……」 「花巻と視線が全然合わないし、俺がいると逃げるみたいにその場からいなくなるから、嫌われてるんだろうなって思ってた」  指摘されて初めて、自分の方が防御壁を作っていたことに気付いた。  足立がそばにいるとなんだか胸がドキドキして、変な自分をさらけ出したくなくて、すぐに逃げたくなる。  挨拶をしたくても、反応がなかったらどうしようとかそんなことばかり考えたし、結果的に逃げ回った。そんな行動が相手を傷付けていたのだ。  問題は足立にではなく自分にあったのだと分かって辟易する。何をやっていたんだ。  鼻の頭を少し掻いて、足立は続ける。 「何度か話しかけようとしたんだけど、花巻はたいてい、萩原と話すのに夢中になっててさ。何回かそんな風にされたから、あぁ、俺とは話したくないんだろうなって」  罪悪感でいっぱいになった俺は、思わず立ち止まってしまった。  そんな風に思ってたなんて。  顔と耳に熱がいっているのを実感しながら、俺は心から謝った。 「ごめんっ。雄飛とは幼馴染で気を遣わないから、雄飛とばっかり喋ってて、たまに他人とどう話したらいいのか分からなくなるんだ。本当は俺も、足立とずっと話したかったんだけど……」 「じゃあ、俺が嫌いだったわけじゃない?」 「うん、決してそんなんじゃないから」  ブンブンと首を縦に振る。なんとか自分の気持ちを分かって欲しくて必死だった。 「萩原とは、本当に仲がいいんだね」  足立は安堵したようにそう言った。  これで誤解はとけただろうか。  それは足立の優しい表情と声色から、すぐに理解ができた。

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