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第9話 救済
足立に話しているうちに、たまに雄飛の言動にふと違和感を感じてしまう自分を恨めしく思った。
雄飛が今まで間違ったことを言ったことはない。言われたとおり、大人しく言うことを聞いておけば何も問題はないのだ。
「ふぅん。萩原って、小さい頃からしっかりしてたんだね」
「うん。クラスの学級委員をやったこともあるし、中学の時、キャプテンを決める時だって、満場一致で雄飛の名前が上がったみたいだし」
「人の上に立ってまとめたりするの、得意そうだもんな」
雄飛とハグは未だにするという事実は伏せておいた。誰にも内緒だぞと言われているから。
そんなことを話していたら、あっという間に自宅の前に着いてしまった。
着くのが早い。結局、自分のナヨナヨ話と雄飛の英雄エピソードだけで話が終わってしまったではないか。
「あ、じゃあ……傘、入れてくれてありがとうね」
「うん」
名残り惜しい。全然話し足りない。
また一緒に帰れるかと尋ねたかったけど、できなかった。俺なんかが図々しく足立を独占してはならない。
そんなとき、空に閃光が走り、数秒後に雷が鳴った。ゴロゴロゴロ……と少し長めの音が響いた直後、違和感に気づいた。
足立は険しい表情で、傘の手元と中棒をギュッと握りしめていた。
「どうしたの?」
急に変わった態度に驚いて尋ねてみても反応はなかった。
俺はもう1度空を仰ぐ。
雷? もしかして、雷に驚いたのか。
またすぐに、空が光った。
今度のは、先程よりも音は小さかったけど、足立は青ざめた顔で宙に視線をさ迷わせている。
いつでも冷静で、余裕と自信に満ち溢れていて、怖いものなんて何も無いって顔をしてるのに。
雷が苦手なんだろうと確信した俺は、少しためらったあとで切り出した。
「あの、天候が落ち着くまで俺んちで休んでいけば?」
「いや、大丈夫だよ」
「だって足立、顔真っ青……」
指摘すると、足立はまた「大丈夫だから」と無理して笑っていた。
いいから、いや大丈夫、というやり取りを数回続けているうちに、雨足もますます強くなり、一際大きな雷鳴が響き渡った。
足立は体を萎縮させ、目をギュッとつぶる。
その姿を見た俺は、体の内から何かが湧いてくるのを感じた。
守らなくちゃ。助けなくちゃ。
気付けばもう俺は、足立の背中に腕を回してふわっと抱きしめていた。
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