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第11話 羞恥

「子供みたいだろ。いい歳して雷が怖いだなんて」 「ううん、そんなことないよ。俺だっていい歳して、真っ暗闇は怖いし」 「それはしょうがないだろ。トラウマみたいなものだし」 「足立のはトラウマじゃないの?」 「俺は、分からないんだ。雷に打たれて死にかけたことがあるわけじゃないよ」  はは、と和ませるように笑う。  大きな音がダメだとか、眩しい光が苦手とかではないらしい。雷が鳴るとなぜか心許(こころもと)なくなって、胸に穴が空いたような気持ちになるという。  本能的なものだろうか。  (足立が雷を怖いってこと、他に誰か知っている人はいるのかな……もしいるとしたら嫌だな)  急に湧いてきた独占欲に自分で驚きハッとした。  どうして今こんなことを思ったのだろう。  ハテナマークが頭に浮かんだ俺だったが、それは一旦横に置いておくことにした。 「なんか意外。足立って何でもできて完璧で、苦手なものなんて何もないんだろうって思ってた」 「何でもできてって……俺、そんなにパーフェクトな人間じゃないよ」 「俺なんか不器用で人見知りだし、暗いし、勉強も運動もパッとしないし……」 「でも俺は、そんな花巻が人間らしくて好きだよ」  躊躇(ためら)いもなく好き、と言われてちょっと狼狽えた。  無意識に耳たぶを触る俺に優しい視線を送りながら、足立は続ける。 「不器用かもしれないけど、一生懸命に頑張ろうとしてる感じが、すごく人間らしいよ」 「人間らしい……」 「人間味(にんげんみ)がある、というか」  人間味。人間としての豊かな情緒。人間らしい思いやり、優しさ。  皆の前でろくに発表もできない自分を、そんな風に思ってくれていたなんて。 「授業中、馬鹿みたいな声出す人だけど?」 「あれは、うん……確かに、大きかったね、声が」  鼻の頭を掻きながら控えめに笑われたので恥ずかしくなるけど。  あぁ、やっぱり俺のこと、ちゃんと認識してくれていたんだ。  恥ずかしさと嬉しさが両方混み上がってくる。顔が火照っているのを自覚しながら、目の前のイケメンに向かって唇を尖らせ文句を言った。 「やっぱり足立も、俺のこと馬鹿にするんだ」 「いやいや、してないよ。一生懸命で可愛いなって思ったよ」 「ハッキリと、変だったよって言ってくれた方がまだマシだ」 「そんなこと思ってないよ。それにさ、花巻の声って透き通っててなんかいいよね。a派出てるよ」 「え、そ、そうかな……」  こんなか細い声、女子みたいで自分では好きじゃないが、癒しを与えているみたいだ。  思わぬところを褒めてもらえて嬉しくないはずがない。  俺はえへへ、と照れた笑みを零して、再度耳たぶを忙しなく触っていたら、首を傾げられた。 「それ、癖? 耳触るの」 「うん」  指摘されて咄嗟に手を引っ込める。  照れたり恥ずかしくなったりすると、無意識に耳たぶに触れてしまうのは子供の頃からの癖なのだと伝えれば、ふぅん、と微妙に笑みを含んだ声を出された。 「とにかく、良かったよ。話せるようになって」  クスクスと笑う足立を見て、俺も心底良かったと思う。  また授業中にヘマをやらかしたとしたら、今度は俺をちゃんと変な人だと笑ってくれるだろう。

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