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第12話 傷跡

 人には言えない、見えない本心。  太陽の光を当てると、光の色が分かれて見えるプリズムのように、角度を変えればいろんな色が見れるのかも。  意外と笑うんだってことも、苦手なものがあることも知れた。  これからもっと、色を見てみたいと思ってしまった。  だからまずは自分から1つ、差し出してみようと思う。  俺はスッとその場を立ち、隣の部屋から創作ノートを5冊持ってきてテーブルの上に置いた。 「これ、俺が今まで立てたプロット。これなんか小学生の時のだから、すごく恥ずかしいんだけど……こっちは最近、書き終えたんだ。スマホに全部記録してあるから、俺が使ってる作文アプリ入れれば、そこで読めるよ」  使い古してボロボロになったノートを開いてページをめくった足立は、賞賛の声をあげた。 「すごい。花巻、これを世に出さないのは勿体無いって。1回応募してみなよ」 「無理だから」 「騙されたと思ってさ。これ、家に持ち帰ってもいい?」 「いや、持ち帰りは禁止だよ!」 「いいじゃん、1冊くらい」  自分の通学カバンにノートを入れようとする足立を、全力で阻止した。  笑いながら、ノートを持つ手を天井に向かって高く上げられてしまったので、取り返そうと足立の白シャツを引っ張りあげた。  そのシャツの隙間から、ほんの少し素肌が見えた。無駄な肉がついていない脇腹。  ふと、俺は息をのむ。  (あ……)  傷跡だった。おへそのすぐ横、脇腹から足の付け根の方にかけて、皮膚が赤く引き()れていた。  咄嗟に半身を起こすと、足立も「ごめん」と謝りながら、乱れた服装を直していく。 「子供の頃、ケトルをひっくり返しちゃったんだ。カップラーメン作ろうと思って」 「そうなんだ……」  気遣うように笑ってすぐに素肌を隠した足立を見て、なんとなく見られたくなかったんじゃないかと、少々申し訳なくなる。  こうして跡に残るくらいだから、相当熱かっただろう。  俺も子供の頃にできた傷がある。雪の日に転んで、左のこめかみをぶつけてしまったのだ。  横に2cmくらい、すっと線を引いたようなこれは髪で隠せるし全く気にならないけど、足立はきっと違う。  足立は持っていたノートを「はい」と返してくれたので、なるべく湿っぽくならないようにわざと明るく振る舞った。 「絶対、俺が書いてることは誰にも内緒だからね。もし言ったら、足立は雷が怖くて泣くんだって言いふらすから」 「えぇ、それは嫌だな」  念の為に指切りげんまんをして、秘密の共有をした時だった。足立はふと、制服のズボンのポケットからスマホを取りだした。 「ちょっとごめん」  誰かからの着信があったみたいだ。  スッと立ち上がり、部屋の隅に行った足立を見て、きっと聞かれたくないのだろうと思い、俺も立ち上がり窓の外を眺めた。  足立が「あぁ」とか「大丈夫だよ」と言ってクスクスと笑っているのが聞こえてきて、もしかしたら、と思った。  ……年上の、男性の恋人。

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