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【2】第1話 女子

 次の日の朝、鏡を見たら酷い髪型だった。  湿気のせいで、いつも以上に毛先がクルクルしている。  昨日の朝だったら、そんな自分にうんざりしていたのに、今は全く気にならない。まるでプレゼントを開ける前みたいな、ドキドキワクワクした気分で、百均で買ったヘアオイルを猫っ毛の頭に馴染ませていく。  もう昨日までの自分じゃない。  教室へ行ったら、足立としっかり目を合わせて「おはよう」って言えるのだ。  まさに、事実は小説よりも奇なり。  昨日の雨と雷とノートに感謝をしたい。 「ふふっ……ふ、………」  気持ち悪い笑みを浮かべた自分と目が合って、我にかえった。  家を出て、足取り軽く学校の方へ向かう。  数百メートル続く大きな並木道を歩きながら、周りの生徒たちの顔をこっそりと観察した。  足立の姿を探すこと、それが毎日の日課だった。自転車を使わない理由はこの為だ。  今日はいないみたい。 「花巻、おはよう」  そんなとき、背後から声を掛けてきたのは足立……ではなく、1年生の時のクラスメイトの、細野(ほその)さんだった。その名の通り、体も脚もスラリと細長いから細野さん、とすぐに名前を覚えられた人だ。  その隣には、名前は知らないが顔は見たことがある、細野さんとよく一緒にいる女の子がいた。その子も細野さんみたいに制服を着崩してネイルをし、化粧もしている。 「あ、おはよう……?」  こうして改まって挨拶をされるのは初めてのことだったので呆気に取られていると、細野さんに「ちょっと来て」と腕を引っぱられた。  その強引さとムスッとした表情に、なんだか嫌な予感がしてくる。  あっという間に2人に囲まれた。 「あのさぁ、ちょっと聞きたいんだけど、君って足立のことが好きなの?」  由井(ゆい)さんという名前らしいその人は、自己紹介もそこそこに、腕を組みながらいきなりそんなことを言うので狼狽(ろうばい)する。 「え?! なんでそんなこと……」 「昨日、どうして足立にあんなことしてたのよ」 「あんなことって?」 「うちら見たんだから。君が足立に抱きついてるところ。ねー」 「ね」  2人が顔を見合わせるので、パニックになった。  まさかあの光景を見られていただなんて。 「いや、あれは足立が……」  ハッとして口を(つぐ)む。  雷を怖がっていたからだ、と勝手に言ってもいいものだろうか。なんだか良くない気がするし、7秒ハグのことだって、本来ならば雄飛と自分だけの秘密だ。咄嗟に機転をきかせることにした。 「あの時、雷に驚いちゃって! 俺、大きい音が苦手だから目の前の足立に抱きついちゃったんだ」  納得したのかしてないのか、2人は何も言わずに冷めた眼差しを送ってくる。  どうしよう、嘘だってバレている?

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