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第2話 誤認

「……ふぅん。まぁ何でもいいんだけどさぁ」  腰まである長い髪を(ひるがえ)し、そう言ったのは由井さんだ。  ちょっと口調が強めというか、勝気でサバサバしているというか。俺の苦手なタイプの女子である。  俺よりも少しだけ背のある彼女は嘆息混じりに続けた。 「あんまりそういうことしない方がいいんじゃない? 変な噂立っちゃうかもしれないし」  その言葉に耳を疑った。  それを心配して、わざわざ忠告しにきてくれたのか。  苦手なタイプではあるが、いい人じゃないか。  嬉しくなった俺は照れた笑みを零してしまう。 「ありがとう、心配してくれて」 「は? いや、あんたじゃなくて、足立のことだから!」 「えっ」 「足立に変な噂が立っちゃったら嫌だから、気を付けてよって言ってんの!」  The・勘違い。穴があったら入りたい。  冷静に考えたらそうか、と納得する。彼女が俺の心配をしたところで、一体何のメリットがあろうか。  真っ赤になっている俺を気にも留めず、由井さんは威圧的な態度のまま続ける。 「私たち、気になってずっと後つけてたんだよね。そしたら急にあんたが抱きつくからさぁ。普通なくない? そもそも男同士で相合傘だなんて……」  そう言って眉をひそめられた。  動揺はしたものの、結構何が言いたいのかが分かった俺は、思ったことをそのまま口に出した。 「あ、由井さん、足立のことが好きなの?」  明るく問いかけると、由井さんは「はぁ?!」と顔を真っ赤に染めてから隣の細野さんに目配せをした。  細野さんは隣で黙って聞いていただけだが、ギョッとした顔をさせて、俺に向き直った。 「とにかく、足立の株を落とすようなことはしないでよね。萩原みたいに出来た奴と君とじゃ、訳が違うんだから」 「へ……? あぁ、はい、すいませんでした……」  行こ、と2人はその場から立ち去ったけれど、俺はしばらく呆然としたまま動けなかった。  細野さんの言葉を、頭の中で何度も繰り返す。  どうしてそこで、雄飛の名前が出てくるのだろう。  色々と考えて、今度は細野さんが言わんとしていたことが手に取るようにハッキリと分かってしまい、俺はしょんぼりとした。  要するに、俺は足立の隣にいてもいい(うつわ)ではないと言いたいのだろう。  そういえば昨日、自分でも思ったことだ。こんな俺なんかが、足立を独占してはならないと。  もし昨日、足立にハグをしたのが雄飛だったら。由井さんたちはきっと、雄飛に忠告したりしなかっただろう。  俺だから。  足立に抱きついたのがナヨナヨした俺だったから、2人は納得いかなかったのだ。  雄飛は足立と同じくらいにしっかりしているし、モテるし、周りからの信頼も厚いし。雄飛の名前を出したのは、俺の親友だと知ってか知らずか。  そういえば子供の頃も、俺みたいなのがクラス1人気の女子と仲良くしていたからバチが当たったんだった。  いいことと悪いことは、いつも同時にやってくる……。

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