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第3話 威圧
教室のドアを開け、足立の姿を探す。
足立は自分の席に座り、いつも仲良くしているクラスメイトの男2人と談笑していた。
じっと見つめていると、足立はこちらに視線をむけて目を細めてくれた。
「おはよう」
爽やかに挨拶をされて、なんだか胸がキュンと疼く。
おぉ、凄い。足立がちゃんと俺に挨拶してくれた。
だがこれも、今日が最初で最後だ。今の足立の笑顔を忘れないように、しっかりと心に刻んでおこうと思う。
「おはよう。あの、少しいい?」
「ん? うん」
足立はちょっと驚いた顔をしたがすぐに立ち上がり、一緒に廊下に出てくれた。
由井さんたちに見られてないかとヒヤヒヤするが、なんとか足立を廊下の行き止まりに連れてくることに成功した。とりあえずはまた礼を言うことにする。
「昨日ありがとうね、色々と」
「いや、こちらこそ」
足立は慈愛に満ちた目で俺を見つめた。
やめて欲しい。そんな風に優しく見つめられると、鼓動がおかしいほどに速くなるし、決心が鈍りそうになる。
だがここは耐えなければ。
グッとお腹に力を込めた俺はさっそく切り出した。
「それでさ足立、あんまり俺と、関わらない方がいいと思うよ」
ニッコリしていた足立の表情が、少しの間を置いてから徐々に陰りを帯びていった。
「どうして?」
「あ……俺と話してたらきっと……足立が周りから、変に思われるかも、しれないし」
足立の鋭い視線が痛くて、しどろもどろになってしまう。
機嫌を悪くさせたようだった。
それはそうだろう。昨日あんなに張り切って一緒に猫カフェに行くと約束したのに。
居心地が悪くなった俺は、取り繕うように無理やり笑顔を作った。
「俺、暗くて冴えないし、足立とは違う次元の生き物だから、足立は今まで通り、外交的な人たちと喋ってたらいいんじゃないかな。猫カフェだって、俺じゃなくても一緒に行ってくれる人はきっとたくさんいると思うし……」
「何が言いたいのか全然話が見えないんだけど」
ピシャリと言われ、ビクッと肩が竦む。
なんだか、めちゃくちゃ怒っているみたいだ。感情の起伏があまりなさそうに見えたのに、こんな表情もするなんて驚いた。
ひるんだ俺に構うことなく足立は続ける。
「昨日、俺のことを嫌ってるとかじゃないからって言ってくれたのは嘘だったの?」
「いや、それは嘘じゃないよ。ただ、足立が俺と喋ってると、その……い、嫌だなって思う人も中にはいるかもしれないから」
「誰、それ」
「え」
「誰がそんなこと思うの? もしかして、誰かに何か言われた?」
慌ててかぶりを振って否定したけれど、足立は身長差を利用して、俺を壁に追いやるようにずいっと体を寄せて見下ろしてくる。
前にも後ろにも横にも逃げ場がなくなった俺は、少々涙目になりながらも事情を説明してしまった。
「ちょっと……女子2人に……」
「ふぅん。で、その2人に何をどんな風に言われたの?」
「えと……」
威圧感に耐えきれず、話さないつもりだったのに話してしまった。
ハグをしたところを見られていたこと。そんなことをしていたら、足立に変な噂が立つかもしれないし、株が下がるだろう、と。
静かに頷いたあとでふと顔を上げた足立は、教室の方に視線をやった。
「そいつらって、何組なのかな」
独り言のように言ってから歩き出してしまったので、ギョッとした俺は咄嗟に足立の制服の裾を掴んだ。
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