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第4話 尺度

「待って待って!」 「どうして。そんなことをわざわざ史緒に言うなんて、余計なお世話だよ」 「いいよ行かなくて! だって、本当のこと、だし」  悲しいけれど事実だ。  俺と足立とでは、ハワイと北極グマみたいに全く釣り合わなくてチグハグだ。  残念だけど、来世に期待したい。  来世ではちゃんと、足立と並んでもおかしくないようなカッコイイ人に産まれるから。  嘆息を漏らした足立は、うつむける俺の顔を無理やり上げさせ、ほっぺたを片手で挟んでぶにぶにと押し始めた。  割と力が強めなのでちょっと痛い。 「で、史緒は結局どうしたいの?」 「ほぇ……何が?」 「周りにどう見られるかじゃなくて、自分はどうしたいのかってことを尺度(しゃくど)にしなよ。2人にそんなことを言われなかったらどうしてた?」  今度は両手でぐいっと引っ張られた。  ぶにぶにぶに。  指の力を次第に強くしつつも、足立は言葉や態度はあくまで冷静に続けた。 「俺は昨日嬉しかったんだよ、史緒とずっと喋りたいと思ってたし、ちゃんと友達になれたんだなって。もし史緒自身が俺と関わりたくないって本気で思ってるんだったら別にいいし、望み通り関わらないであげるけど……そうしたいって思ってるの?」  痛みに耐えながら無言で首を横に振ると、きっぱりと告げられた。 「なら、言うこと聞く必要なんかないだろ」  最終通告されてから、ぷるんっと頬の肉を弾かれて、1歩足が後ろに下がった。ほっぺが取れていやしないか両手で挟んで確認をする。  大丈夫なのだろうか。  言うことを聞かなかったら、あの2人は怒らないだろうか。  そんな子供みたいなことを思っていると、また目の前のイケメンに冷たく見下ろされた。 「史緒は真面目で一生懸命なところがいいなと思ってたけど、自分を卑下しまくってるところはイラつくな」 「えっ」  言葉の通りに苛立ちを含んだその声は、いとも簡単に俺の硝子のハートにヒビを入れた。  追い討ちをかけるように、足立は淡々とヒヤリとした声で言葉を並べていく。 「『俺なんか』って便利な言葉だよね、嫌なことからも逃げれるし。でもさ、卑屈になってたらこの先もどんどん逃げるようになっちゃうよ。史緒は自分を弱いもの扱いするのはやめて、もっと素直になりなよ」  最終的に、粉々に砕け散った硝子のハート。  ぐうの音も出なくてしゅんとなった。自分が惨めで可哀想。いつでもそう思って、悲劇の主人公みたいになっていた。そうしたら、周りは優しくしてくれるから。  そうすることで誰かに迷惑をかけているとも知らずに、俺はずっと子供みたいなことをしていた。  途端に恥ずかしく、申し訳ない気持ちになってきた俺は、軽く頭を下げた。 「ごめん」 「あぁ、こっちこそ、ハッキリと言っちゃってごめん。で、史緒は結局俺とどうしたいの?」  確認を取るように、足立は今度は子供を見守るような優しい目を向けてくる。  自分はどうしたいのか。  本音の本音は、足立と仲良くしたい。もっと知りたい。  例え誰かに変だとか釣り合ってないと思われたとしても、喋りたい。 「……仲良くしたい」  ポツリと言えば、足立は納得いったように「うん」と(うなず)いて口の端を上げた。 「俺もだよ。じゃあ話はこれでおしまいな」

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