20 / 94
第5話 庇護
そして俺の背中をポンと叩き、教室へ戻ってしまった。
さっきは奈落の底へ突き落とされた感じだったけれど、今はそうでもない。それどころか、なんだか清々 しい気持ちさえ湧いていた。
彼はきっと、あえて厳しく優しく叱ってくれたのだ。友達にこんな風に言われたのは初めてだった。
俺の為に、ちゃんと言ってくれた。この人はきっと、自分のことをちゃんと分かってくれる。
この信頼感から生まれた気持ちはなんなのか、今はよく分からない。
昨日、足立と帰り際に見つめあった時と同じように、胸が暖かくなる感じがした。
「史緒、はよー。そんな所でどうしたんだよ」
朝練を終えた雄飛に声を掛けられる。
俺は自然と笑みをこぼしながら「何でもないよ」と言って、一緒に教室へ戻った。
* * *
5階建てのビルの2階部分にあるそこは、オープンしてすぐの時間だったみたいで、お客さんはまだ誰もいなかった。
店員さんに、ここでのルールや注意事項などの説明を受けてから手の消毒をし、荷物をロッカーに入れた。
脱走防止のための二重扉を開けると、早速2匹の猫が床に寝転がっていた。気が抜けたように、お腹を見せて眠っている。一瞬、綿あめが転がっているのかと思った。
真ん中には円形状のキャットタワーがあり、そこには沢山の猫が鎮座していた。
ざっと見ただけで10匹以上。
部屋のすみにはゲージも何個も重ねてあって、空いているゲージもあるが数匹の猫が眠り込んでいた。
保護猫カフェは、普通の猫カフェとは違うらしい。
猫と触れ合えるという点は同じだけど、ここにいるのは、色んな事情により行き場をなくし、保護された猫たちだ。野良猫だったり、保健所からだったり、哀しいけれど人間の勝手な事情により捨てられた猫だったり。そんな猫たちの新たな里親を募集する場所なのだそうだ。
ソファーに腰を下ろすと、眼の色が濃いグリーンの、前方に折れ曲がった耳をした中型のまん丸い猫が近付いてきて、こちらをじっと見つめてきた。
胸がきゅうっと締め付けられて、庇護 欲をかきたてられる。
「その子はスコティッシュフォールドの『コロン』だって。可愛いな」
足立は、猫じゃらしを使って数匹の猫とじゃれあいつつ、クリアファイルを開いて見ている。写真付きで、猫の名前と特徴がかかれているようだ。
俺もその『コロン』に向かって手を伸ばし、クリーム色の背中を撫でた。
「可愛いね。毛がフサフサ」
「おやつあげてみようよ」
足立に促され、棒付きキャンディと同じような見た目のものを購入し、袋を開けてみた。
甘い匂いに誘われた猫たちが一斉に周りに集まってくる。
こちらが差し出す間もなく、猫が3匹、俺の隣に来てそれを舐め回す。ぺろぺろぺろ。
もう1匹やってきて、その猫にもあげたいけれど強そうな猫が前足を俺の腕に乗っけてアピールしてくる。
取り合いだ。
ぺろぺろぺろぺろ……猫の舌が動く度に、俺の心の柔らかいところもくすぐられた。
(可愛い……!)
「可愛いね。癒される」
隣の足立もおやつをあげながら言って、ニッコリする。
飼ったことはないって言っていたけど、足立も猫好きらしい。これから飼いたいから猫を探す為にここに来たのだろうか。
訊いてみたら、首を横に振られた。
ともだちにシェアしよう!