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第7話 回復

 羞恥で顔をうつむける俺に、気遣うような声が降ってくる。 「大丈夫? 何か不安になった?」 「うん……ちょっとだけ、昔のことを思い出して。俺もあの時、1人でずっと閉じ込められてたから」 「ロッカーに入れられたこと?」  頷くと、言葉を選ぶような困った顔をされたので、俺は慌てて笑顔を作って顔を上げた。 「でも大丈夫だよ。ごめんね。ありがとうこれ……」  絆創膏が貼られた手を見せるけれど。  次の瞬間、足立の腕がこっちに伸びてきて、俺は抱きしめられていた。  (……えっ?)  なぜか自分の頭が足立の肩口に埋まっている。  え、え? と声も出せずに、ただ宙に視線をグルグルとさ迷わせる。    (な、なにしてんの、足立)  2人きりじゃないのに。店員さんだって、猫たちだって沢山いるのに。  いや、2人きりだったらしてもいいわけではないが。そこまで考えてようやく、足立の意図が分かった。  ぽんぽんと俺の頭を軽く叩いたあとで、足立は体を離した。  きっと自分の顔は赤くなっているのだろうと安易に想像がつく。困ったように笑う足立は鼻の頭をかいた。 「ごめん。ちゃんと数えてなかったから、7秒じゃなかったかも」  そんなことを気にしているんじゃない。  確かに、軽く10秒は超えていただろうが。 「──大丈夫だよ」  足立はよしよしと、俺の背中をさすってくれた。 「この猫も、ここで沢山の人たちと猫たちに愛情をもらって、また心から幸せだって思える時が来るから。今はまだ無理でも、大丈夫だから」 「……うん」  考えていたことを見抜かれたのかそうじゃないのか。足立の言葉がじわりと暖かく胸に染みて、俺の目から一粒の涙がポタリと落ちる。  あの時のことを思い出すと怖くて仕方がなくなるけど、こうして自分を気遣ってくれる人がいることが、心の拠り所になる。  今は(おび)えている白猫だけれど、足立の言うように、どうか未来はまた明るいものになりますように。  気を取り直して立ち上がり、棒の先にネズミ型のぬいぐるみがついているおもちゃを使って、他の猫たちと戯れてみた。  猫たちはジャンプしたり追いかけたり、面白いくらいに食い付いてくれる。 「んなぁーん」と可愛くひと鳴きされて、あまりの可愛さにこちらも「ふおぉ」と変な声が出てしまった。 「元気になった?」  顔を上げると、息がかかりそうな距離に足立の顔があった。  身長差があるから、俺の背に合わせるように膝を折って体を小さくしてくれているらしい。  足立なりのコミュニケーションの取り方なんだろうけど、目の奥の色を見定めるかのようにじっと見つめてこられると、正気でいられなくなる。  俺は忙しなく耳たぶを揉む羽目になった。 「な、なりました」 「それは良かった。そんな風に笑ってる史緒、久し振りに見たな」 「え、そう?」 「学校でもそんな顔して笑っていればいいのに。俺はそっちの方が好きだし、いいと思うよ」  周りの目ばっか、気にしてないでさ。  足立はそう言って、向こうの猫と戯れに行った。  しゃがみこんだ俺は平然と、そこに寝転がっている長毛のミヌエットをくすぐるが、自分の胸は祭りのようにうるさく早鐘を打っていた。  ていうか、また好きって。  ミヌエットを抱っこして、赤くなった自分の顔を隠すように、そのモフモフのお腹へ顔を突っ込んだ。  あぁーモッフモフ気持ちいい。そして、なんだか色々と恥ずかしい……。  学校でもそれなりに、笑っているはずなのだが。  そう指摘されたからにはきっと、あまり笑えていないのかも。ひたすら大人しく、目立たぬように過ごしているから。  確かに、無防備に心から笑うのって気持ちがいいものだ。  もっと笑いたいと思った。  足立と、一緒に。

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