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第8話 訓練
保護猫カフェを出てから、何か食べようという話になった。
何でもいいよ、と足立に委ねると「史緒が食べたいって思うのにしようよ」と、何故かきちんと考えるように言われた。
雄飛とご飯に行く時はいつも決めてもらえるから、自分が決めることは今までなかった。
ふと、これは足立による訓練なのではないかと思う。
天 の邪鬼 で人の顔色を伺うことしか出来ない自分の、素直な感覚や感情を表に出す特訓。
他人の目を恐れずに、自分の意思をきちんと言うこと。それらが出来るように、足立はわざと突き放すような言い方をするんじゃないか。
にべもなく言う足立の言葉にショックを受けたりするけど、視点を変えると実はいいことなのだなと分かると、言ってくれることに感謝したくなった。
歩いていたら、瀟洒 な洋館が目に入って足を止めた。
真っ白なレンガの2階建てのそれはどうやらカフェらしく、中はほぼ女性客で埋まっている。
目が甘くなりそうな内装のファンシーさからして、どう考えても男同士で入るには場違いな気がして素通りしようとしたら、足立は俺の腕を引っ張って中に入り、店員さんに「2人です」と言ってしまった。
凄い。尊敬する。本当に、周りの目とかあまり気にしないんだ。
着席してからも、俺は落ち着かずに周りをキョロキョロと見渡してしまう。けれど誰も、俺たちのことなんて気にしていなかった。
ハンバーグランチセットを食べ終えた頃には、俺はもうすっかりリラックスしていた。
実はこういう洒落 たお店、1度は入ってみたかったのだ。お洒落なカフェで自分のキャラをデートさせるシーンとか書いていたから、実際に雰囲気を感じ取れたので、入れて良かったと思った。百聞は一見にしかず、だ。
足立はデザートのクレームブリュレが運ばれてきた瞬間、ぱぁっと顔を輝かせた。
スプーンで表面の硬いカラメルの層をパキパキ割って、プリンと一緒に口へ運ぶ。食べ終わるのが嫌なのか、やけにゆっくりじっくり味わっている。
幸せそうな笑みを浮かべている足立が子供みたいに可愛く見えて、微笑ましくなった。
「足立って、甘いもの好きなんだ?」
「うん。普段はあんまり食べないけど、外食する時は頼むことが多いかも。史緒は?」
「俺も好き」
「だよね。そんな気がした」
猫カフェといい、ここといい、足立といると、全てが真新しい光景に見えるから楽しい。
ポカポカした暖かい心のまま、ドリンクバーを取りに行って席に戻ろうとした時だった。
足立が女の子2人に話しかけられているのが見えた。2人の後ろ姿は、このカフェにお似合いなファンシーな服装だ。
女子2人の顔がこの目ではっきりと見えた瞬間、ギャーッと声を上げそうになった。
由井さんと細野さんだった。彼女たちもここで食事をしていたみたいだ。
隠れようと思ったが、向こうも早速俺に気付いてしまい、2人に目を丸くされた。
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