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第9話 独占
「花巻? え、待って、もしかして足立、こいつと来てたの?」
俺をこいつ呼ばわりしてきた由井さんは、驚きを隠せない様子で足立に訊いた。「そうだけど」とキョトンとしながら言う足立を見て、俺は一気に冷や汗をかく。
由井さんは俺たちを交互に見てから、こっちに視線をぶつけてじろりと睨んできた。
「ていうか花巻、この間うちらが言ったこと聞いてた? 普通はあぁやって言われたら、大人しくしとくもんでしょ。こんな所に男2人でって……無いわ。もう少しまわり見て行動しときなよ」
「ご、ごめん……でも俺……」
「言ったじゃん。変な噂立ったら嫌だって。もし学校中に広まっちゃったらどう責任とんの?」
しゅんと気落ちする。
もう1度謝ろうとしたら、感情を読み取れないほどの無表情で立ち上がった足立が、由井さんを静かに見下ろした。
「由井にとっての普通って何? そうやって、花巻を虐めて馬鹿にすることが普通?」
由井さんは少し怯んだように、大人しくなった。
動揺して、何か言いたげに唇を噛んでいる。
「あ、足立。うちらは足立の為を思って──」
見かねた細野さんが、慌ててこの険悪な空気の中に割り込んでくるが、足立は耳を貸すことなく静かに言った。
「由井。自分の株を落とすようなことは、もうすんなよ」
「……!」
由井さんは目を見開いて、心外だといった表情になったあと、細野さんの手を引いて逃げるように店の外に出ていってしまった。
「ちょっと足立、あんな言い方……」
由井さんは、足立のことが好きなのに。
きっと傷付いただろう。
足立はふぅとため息を吐いて、ゆっくりと着席した。
「由井にはさ、前に告白されたことがあるんだ」
「そうだったの?」
「1年の時な。でも友達以上には見えなかったから振ったんだ」
「そっか……」
そんな過去があっただなんて。
あの由井さんの感じだと、振られてもまだなお、足立に恋をしているのだろうか。
「実は前にもあったんだ。1年の体育祭の時期、一緒に実行委員してたクラスメイトと仲良くしてたんだけど、由井はそいつに向かって、足立は本当は迷惑してるんだとか、足立のことを考えろとか言って、俺から遠ざけようとして」
由井さんのしたことは良くないことだけど、その気持ちは分からないでもなかった。
好きだったら、独占したくなるものだ。
自分だけを見て欲しい。好きになって欲しい。けれどそれは叶わなかったから、由井さんは足立と仲良くする人に敵意を向けて嫉妬するという、ちょっと変な方向へ行ってしまったのかもしれない。
独占欲が引き起こすものはいつだって嫉妬心だ。
自分もこの間、同じことを考えたのでよく分かる。
雷が怖いという秘密を、俺以外の人が知っていたら嫌だな──……
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