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第12話 嫉妬

「あ、そうか、この子と猫カフェ行ってきたんだ?」  にこやかに笑みを浮かべる康二さんは、俺と足立を交互に見渡した。  どうやら足立は、今日俺と行くってことを話していたらしい。足立は「うん、楽しかったよ」と言ってくれたので、こちらも嬉しくなってつい顔が綻ぶ。   「ハムスターみたいな人と一緒に行くって言ってたもんね」  だが康二さんが放った一言に、俺は目を丸くした。  そんなことを足立は言っていたのか。  足立は少し笑みを浮かべながらすいっと顔を背けた。   「──いやぁ悪かったね、僕が猫アレルギーなばっかりに」  康二さんが続けた一言に引っかかった。  どういう意味だろう。  首を傾げる俺の横で、その答えを足立はくすくすと笑って言う。 「しょうがないよ。ていうか猫大好きなくせして、アレルギーってね。どうにかならないのかな」 「本当だよ。よりにもよってだよ。いつか猫を飼うっていうのが昔からの夢だったのにさぁ……あぁ、僕、猫と同じ空間にいるだけでくしゃみが止まらなくなっちゃうんだ。抱っこなんてした日にはもう大変。手とか首とか、痒くなっちゃって」  前半は足立に、後半は俺に向かって明るく話す康二さんに、俺は貼り付けたような笑みを浮かべて「はは」と返した。  なぁんだ、そっか。  俺と行きたいから足立は誘ってくれたのだと、今の今まで勘違いしていた。  よく考えたらそうだ。足立が、俺をまずはじめに誘うわけないではないか。  足立は、康二さんと行きたかったんだ。  猫カフェに行けたのは結局自分なのだし、楽しめたのだからいいじゃないかと、自分に納得させようとしても、妙に胸が重たかった。  ──史緒とだったら、楽しめると思って。  その言葉の裏には『本当は康二と行きたかったんだけど』が隠されていた。  はしゃいだ自分が、馬鹿みたいに思えてしまう。そしてこんなことで落ち込んでしまう自分は、やっぱり足立が好きなんだ、足立の1番になりたかったのだと、再認識してしまう。  こんな気持ちになっているなんて見透かされたくなくて、笑っているように心がけた。  こっそり好きでいるだけだったら、足立にも康二さんにも、迷惑はかけない。この気持ちは、自分だけの秘密にしておこうと胸に刻んだ。  しばらく談笑したあと、足立が「実は史緒に合うシャンプーがあればと思って……」と本題に入ろうとした時に、足立のスマホに着信がきた。  画面を見た瞬間、眉をひそめた足立は、俺たちに断って店の外に出ていった。  誰からだろうかと気になりつつも、康二さんと2人きりにされてしまい、ドギマギしてしまう。  康二さんは待合室のソファーへどうぞ、と言ってくれたので腰を下ろした。テキパキとした動きで、数種類のサンプルのミニシャンプーを持ってきてくれる。  ボトルの蓋を開けて顔を近づけると、レモンやオレンジといった柑橘系の香りがした。 「あ……これ、すごくいい匂い」 「自然由来の成分を使っているから、洗った後も香りが持続してくれるよ。市販のシャンプーは洗浄力が強いものが多いから頭皮に負担がかかるし、香り成分も一緒に洗い流されちゃうんだ。史緒ちゃんは普段、どんなシャンプー使ってるの?」 「し、市販のやつです。適当に安売りしているものを」  いきなり『史緒ちゃん』だなんて呼ばれて狼狽える。社会人からしてみたら高校生なんてお子ちゃまなのかもしれないけれど、ちゃん付けにはびっくりだ。  洗い方や髪の乾かし方などいろんなアドバイスを受けている最中、足立はなんだか申し訳なさそうな顔でこちらに戻ってきた。

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