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第4話 電話

 俺からの連絡を待ちわびていたかのようにすぐに掛かってきたので、ちょっと嬉しくなった。  えい、と通話ボタンをスワイプする。  もしもし、と小さく言えば、足立は開口一番謝ってきた。 『ごめんな今日、先に帰っちゃって。もう少し遊べたのに』 「ううん、いいよ。その……大丈夫だった? お父さん……」  恐る恐る名前を出すと、軽い声が返ってくる。 『あぁ、聞いた? 康二から。こっちの予定なんて無視するから困るんだよね。この間なんて、頼んでないのに学校まで迎えに来られてビックリしたよ。友達と寄り道していく予定だったのに』 「そっか、大変なんだね……」  足立の親も離婚していたことは、康二さんに教えてもらうまで知らなかった。  うちの人、猫嫌いだから──と力のない笑みを浮かべて言っていた足立を思い出す。 『でもはいはい言っておけば丸く収まるし、もう慣れた』 「そっか」 『髪、やってもらった?』 「うん、康二さん、すっごくサラサラにセットしてくれたよ。頭に天使の輪が出来るなんて初めてかもしれない」  嫌味を言われたり、俺が足立を特別視している感情を気付かれたことは言わなかった。  康二さんを決して悪くは言わない。だって足立の恋人だから。 『へぇ、見たいな。ビデオ通話しようか』 「え?」  こっちの反応はおかまいなしに、ビデオ通話に切り替えられてしまった。  仕方なく俺も切り替えると、顔をほんのり赤く染めた情けない自分が画面に映り、ますます恥ずかしくなった。 『本当だ。いつもよりクルクルしてない』 「トリートメントもしてくれたから。でも残念だけど明日には、いつものパサパサクルクルな頭に戻っちゃうと思う」 『今の髪型もいいけど、いつものクルクル頭も俺は好きだよ』  だからどうして、そういうこと。  優しい言葉を掛けられると、勘違いしちゃうからやめて欲しい。  この人は、興味のない人にも無条件で優しくする、根っからの善人……言われたことをしっかり胸に刻みこもう。  それからしばらく、髪型の話で盛り上がった。  自分は直毛だからクセのある髪質が羨ましいだとか、史緒の髪型はミケランジェロの絵画に出てくる天使の子供みたいだとか、何か裏があるんじゃないかと疑うくらいにベタ褒めされて面映ゆくなり、俺は耳たぶを忙しなく触る羽目になった。  ほら、俺と話す足立はこんなにも楽しそうにしてくれる。それだけで心は満たされる。  ふと会話が途切れた時に、明るく振る舞いながら俺は言った。 「あのさ、俺に何かできることがあったら……言ってね。俺で良ければ……力になるから」  いきなりのことでビックリしたのか、足立は一瞬だけ虚をつかれた顔をしたけど、すぐに目尻を下げた。 『ありがとう。じゃあ、史緒の書いてる小説をネットに投稿して欲しいな』 「……そういう、ことじゃなくて」 『分かってる。気遣ってくれてるんだよな? ありがとう。じゃあまた、どこか出かけようよ。どこ行きたいか考えておいて』  お父さんのこととかで何か悩みを抱えているのなら相談にのるよ、との意味合いで言ったつもりなのだが、そんなふうに誘われてしまった。  大丈夫なんだろうか。俺と出かけると、康二さんに叱られないだろうか。  まぁいいか。足立がそうしたいって言ってくれてるんだから。

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