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第6話 移動

 無意味に扉をパタパタと開け閉めしてみる。  願わくば異世界へ繋がる扉となって上履きが消えて欲しいものだ。  とにかく、この濡れた上履きを瞬時に乾かす方法を思いつかないので、持っていたビニール袋に入れて持ち帰ることにした。  かけられていたのは単なる水らしい。牛乳とかコーラにされなかっただけまだマシだ。  北側の昇降口の靴箱に来客用の茶色いスリッパが積み重なって置かれているのは知っていたので、1つ拝借して、教室まで走る。  滑り込むように着席するとすぐに担任の教師が入ってきた。  遠くに座る雄飛がこっちを見ているのに気付いたので、息を切らしつつも笑顔で手を振った。  ホームルームの後、先生は急に「席替えでもしようか」と言い出した。1時間目の世界史の先生が、体調不良で休みなのだという。聞いたクラスメイトは皆して大はしゃぎだ。  先生が即席で作った番号の書いた紙を、教卓の上に人数分乗っける。生徒たちがわらわらとその周りに集まり、1人1つ紙を手にしていく。俺は皆から1歩遅れて紙を手にした。  黒板に書かれた番号を見て机と椅子を移動させる。  今度は窓際の席で、後ろから2番目だ。  なんというベスポジ。しかも後ろの席は。 「やった。史緒の後ろ」    やってきたのは雄飛だったので顔が綻んだ。  近くに気兼ねなく話せる人が1人でもいれば心強い。  右隣は誰だろうかとソワソワして待っていると。 「俺、史緒の隣だった」  にこやかに目尻を下げる足立に話しかけられて、心臓が口から飛び出そうになる。  すごく嬉しいけれど、態度に出して素直に喜べない。  だって後ろには雄飛が……。  足立は腰を下ろし「よろしくね」と唖然とする俺の顔を覗き込んだ。  ぎこちなく頷くと、目が合ったのか、足立は斜め後ろの雄飛にも同じことを言った。 「よろしくね」 「おう」  思ったほど険悪なムードは出していない雄飛だけど、何を考えているのか分からない。   次の席替えは夏休み明けだ。  それまで何事もなく無事に過ごせますように…と願った。  席替えが終われば自習になったのだが、出された課題を終わらせてノートを提出しないと居残りらしいので、皆真面目に取り組んでいた。  俺も真面目に教科書とノートを開いて勉強していたら、小さく折りたたまれた紙が目の前にポトッと落ちてきた。  顔を横に向けると、足立は頬杖をついてこちらを向いていた。  開けて見てみて、と言うように目で合図されたので、照れながらもその小さな紙を開いてみる。

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