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第11話 困惑
部屋のドアが開いたと同時に、雄飛が俺のところへ駆け寄ってきた。
そして勢いよく、手の中からミサンガを取り上げられる。
言葉を失ったまま呆然としていると、雄飛は硬くしていた表情を和らげた。
「汚いから触んなよ。手汚れるぞ」
「あ、ごめん。片付けようと思って」
謝ると、雄飛はミサンガをペン立ての底に突っ込んで、その上からペンをザッと入れた。
「部屋の物勝手にいじんなよ。きわどい本とか隠してあるんだから」
「え、やだなぁ」
クスクスと笑いあって、おばさんが焼いてくれたアップルパイを堪能した。
パイ生地と一緒に大きめにカットしてあるトロッとした林檎をすくって口へ運ぶと、じわりと甘酸っぱさが広がって頬っぺが落ちそうになった。
「おばさんのアップルパイはいつ食べても美味しいね。ちょうどいい甘さで」
「そうか? 俺にはちょっと甘すぎな気もするけど」
「雄飛、甘いもの昔から好きだったじゃん。子供の時はおかわりたくさんして」
「……そうだっけ」
「そうだよ。覚えてないの?」
食後は雄飛も俺も、真面目に勉強に取り組んだ。
そのまま夕飯までご馳走になった後で、帰ることにした。
座って支度をしていると、雄飛も膝を折って俺の隣に来て、カバンの中のビニール袋を見ながら申し訳なさそうに言う。
「まず始めに上履き、洗っといてやれば良かったな。気が利かなくて悪い」
「そんなこと雄飛が気にしなくていいよ! うち、乾燥機あるからすぐに乾くし」
「そっか。それはそうと、こういうことまたされたらすぐ言えよ。犯人探し、手伝ってやるから」
「ふふ、ありがとう」
犯人は本当は分かっているんだけど。
雄飛も知ったらきっと、足立みたいに本人に直接注意しに行くと言い出しそうだ。
立ち上がり、部屋を出ようとしたら腕を掴まれた。そのままじっと凝視される。
いつものセリフはないけど、帰る時はだいたいしているので、雄飛の背中に自分から手を回す。
焦りから、心臓が急にバクバクと鼓動しだした。
また、キスをされたらどうしよう。
たぶん、しちゃダメだ。
だって俺には好きな人ができたんだ。
例えそれが、自分を見てくれない相手だと分かっていても。
7秒の間じゃ、答えを導き出せなかった。
気付いたら目の前に雄飛の唇があって。
自分が顔を伏せるよりも早く、雄飛の方から顔を落とされた。
柔らかいものが触れている。
この瞬間はいつも、頭がフワフワとして思考力が奪われる。綿あめの中に自分の体が入れられて溶け込んだ気分になる。
頭を引こうとしたら、何故か唇が離れていかない。こんなに長い時間、唇をくっつけているのは初めてだった。
いつもと違うと違和感を感じれば、急に下唇が濡らされ、突き抜けるような電流が背筋を走った。
あ、となった時にはもう、舌先で唇を深く割られていた。
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