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第12話 大差

 歯列や上顎をなぞられ、くまなく味わうみたいに艷めく舌がうごめいている。それは初めての感覚だった。  持っていたカバンを落とし、雄飛から離れようと胸を押すが、(あらが)おうとする体をいとも簡単に強い力で縫い付けられてしまった。  雄飛は俺の顔を両手で掴んでくるので、少しも頭を動かせない。  舌を吸われ、液体をかき混ぜるみたいな卑猥(ひわい)な音が耳の奥でする。  体の奥がジンジンと熱を帯びていった。   「──ゆう、ひっ」  一瞬、やっとの事で唇から逃れるが、あごを力強く押さえつけられ、また口をふさがれてしまった。  こんなに強引で、自分のことしか考えていないような、身勝手なキス。  怖い。雄飛がまるで知らない人に見えた。  震える手で、思い切り力を込めて雄飛の手を引き剥がした。互いの息が上がっている。燃えるように熱くなった顔を自覚しながら、伏し目になって訴えた。 「ちょっと待ってよ……さすがにっ……これは……っ」 「これは、何?」  ハッとして顔を上げれば、雄飛は濡れた唇を拭わぬまま、俺に鋭い視線を送っていた。  何を考えているのか読み取れない表情で言葉を続ける。 「いつもしてることじゃん。さすがにこれはって、何がどう違うんだよ」 「どうって……だって今のは……!」  違いすぎる。いつもは単に、唇と唇をくっつけるだけ。今のは、愛し合う恋人同士がするみたいな、深いキスだ。さすがにこんなの、友達同士で普通はしない。  そう考えてみて、ふと思った。  なら俺は、唇を合わせるだけなら全く問題はないと思っていたんだろうか。 「史緒の見解だと、舌入れなきゃOKで、入れるのはNGってこと?」 「そ、そういうことじゃないよ」 「じゃあ何なの?」 「……雄飛、ごめん、俺、もうこういうのは……」  焦る俺が目に入っていないのか、雄飛は全く動揺せずに首を傾げている。何を言っているのか意味がよく分からない、とでも言っているような表情だ。  出来ることなら耳をふさいでいたかった。  いつか雄飛にまた彼女ができたり、俺とのハグやキスに飽きる日が来るまで、目を伏せていたかった。  けれど今日、ピリオドを打たなくては。 「好きな人でもできた?」  指摘され、勝手に目が泳いでしまった。  雄飛は「マジか」と鼻で笑ったので、咄嗟に嘘を付いた。 「そうじゃないけど、こういうのはしない方がいい気がするから……もう、今日でおしまいにする」  そう宣言をする。  目は合わせられなかったが、自分にしては真っ直ぐな言葉でちゃんと伝えられたと思う。

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