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【4】第1話 双子
足立と遊べることになったのは、8月に入ってからだった。
長かった梅雨も明け、今は夏一色となっている。絵の具で塗りつぶしたかのように真っ青な空に、綿あめのような白い雲。
電車からホームに飛び出して改札を出ると、まだ約束の時間の15分前なのに足立はいたので嬉しくなった。
だが足立の格好を見てハッとする。
足立はベージュ色のロゴTシャツ、黒いパンツと生成り色のスニーカー、そしてカーキ色のメッセンジャーバッグという出立ちだった。
死角になるところに隠れて、自分の格好を改めて確認すると……靴やバッグまで、色合いがまるっきり一緒だった。
家に戻って着替えてこようか。
でもそんな時間はない。
あぁぁどうしよう。
やっぱりピンク色のTシャツにすれば良かった。
頭を抱えていたら、足立と目が合って、こっちにやってきてしまった。
「史緒。おはよう」
「お……おはよ」
「どうしたの、頭抱えて」
「あ、ごめん、あの」
申し訳ない。
何が申し訳ないって、足立が自分とまるっきり同じような格好をしたこんな俺と、歩かなくちゃならないことだ。
足立がもし周りに笑われたりでもしたら、いたたまれなくなる。
「1回、家に帰らせて?」
「忘れ物?」
「着替えてくる」
俺の服装を一瞥 し、自分の身につけているものも確認した足立は噴き出した。
「なんか俺たち似てるね」
「ごめんね!」
「ん? 史緒はどうして謝ってくるの?」
「いや、だってこんな……足立が嫌かなって……」
俯くと、今度は呆れたようにため息を吐かれる。
「あぁー……イラついた」
「えっ、ごめん!」
「また悪い癖が出てるよ。史緒は俺と似た格好で恥ずかしい?」
「ううんっ、俺は全然恥ずかしくないよ」
「なら俺だって恥ずかしくないよ」
足立は俺の髪の毛をくしゃくしゃとかき混ぜてくる。せっかく時間をかけて整えてきたのに台無しだ。
「あの、足立……」
「それに、友達同士でお揃いの服装して街を歩くのなんて、今どき普通だよ?」
「え、そうなの?」
「流行 ってるじゃん。知らないの?」
創作ばっかりしてるから、世のトレンドやファッションに疎 い俺はそんな流行りを知らなかった。
俺は心底安堵して、足立の隣を歩く。
どうやら足立はその『双子コーデ』とやらに憧れがあったみたいだ。
流行っているという割には、俺たち以外に双子コーデをしている若者はいないけど……きっとこの街にはこれから流行りがくるのだろう。
今日はまずは映画を観てから足立の家へ行く予定だ。
夏休みの映画館はそれなりに混んでいて、チケット売り場には長い行列ができていた。
これから、ゴリゴリの恋愛映画を見る予定。たぶん、男2人で観るような映画ではない。
だが足立は『創作のネタになるんだったら観てみようよ』と、変な気遣いをしてきて断るにも断りきれずに観ることになったのだ。
主演の若手俳優も、ヒロインの女優も最近人気が出まくりらしい。
原作は本で読んでいたが、映画は少し違う展開らしいので楽しみだった。
中に入ると案の定、周りはカップルと女子だらけだった。
あのカフェで多少は免疫は付いたけれど、ちょっと俯きながら席に座る。
すると後ろの方で『あの2人、ペアルックじゃん』と女の人が言ったのを耳が拾った。
クスクスと笑われて、顔が熱くなった。
呑気にオレンジジュースをジュージュー飲んでいる足立に、小さな声で文句を言う。
「流行ってないじゃん」
くっくっ、と悪戯をしかけた子供みたいに笑われた。
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