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第8話 暗闇

 あんなに青かった空は、いつの間にかオレンジ色に染まっていた。  下のと違って、ここのカーテンは遮光するらしいが、部屋の中は濃いグレー色をしていて、まだどこに何があるかハッキリと認識できる。  足立と、夜の訪れを待った。  夏の夜が来るのは遅いけど、話をしていたらあっという間に日が暮れていた。じりじりと闇が迫ってくるが、電気を付けたい気持ちをグッとこらえる。 「例えばだけど、暗闇の中でも会話をしていたり、何か音が聞こえていたら平気ってことはないかな」 「音楽を聴いてみたことはあるけど、ダメだった。ソワソワしちゃって」  ベッドの上で向かい合っている俺たちは、作戦会議を繰り広げている。  足立がどうしてこんなことに付き合ってくれるのか不思議だった。単なる好奇心だとは思うが、時間もかかるし面倒なことなのに。  力になりたいと言ったのは自分なのに、未だに俺は何も力になれていない。  俺も、雷を克服する手助けをしようかと思ったが、偽物は怖くないというし、雷が鳴る時なんてそうそうおとずれない。  時間の経過と共に、部屋が濃紺に変化していく。  もう19時を過ぎているのに、太陽はしぶとく残る。それから数十分も過ぎれば完全に空は黒くなったが、目が順応したようで、足立の姿が認識できた。これではちょっと意味が無い。  足立も同じことを考えたようで、うーんと唸りながら、俺と顔を見合わせた。 「なんか、見えちゃうな」 「うん」 「雨戸閉めてみようか」 「えっ、それはなんか怖い」 「じゃあ、これをかぶってみる?」  折り畳まれてあった薄い羽根布団を持ち上げられて、ひょえっと変な声が出た。  そんなのにくるまったら可動域が制限される。暗闇とセットで、せまいところも苦手なのに。  でも他に、暗闇を作り出す方法を思いつかない。無理そうだったらすぐにやめればいいんだ。   「お願いします」  ベッドの上に正座をし、ぎゅっと目をつぶって腹をくくる。  目を閉じると、それだけで闇を感じられるのに、さらに上から布団を被せられると、まるで墨のような闇がまぶたの裏に映る。  すぐに怖くなった俺は目を開けた。  だけど、目の前にも同じ光景が広がっていた。  闇。闇。黒目を動かす。闇。闇。  上下左右、どこを見ても黒い。  水の中にいるみたいに、息が出来なくて溺れそうになる。  (あっ……足立、助けて)  出そうとしても、声が出せなかった。  縋る(すが)りたかった。助けを求めるように、布団から片手を出して(くう)にさまよわせる。  すると足立はその手をつかまえてくれて、恋人繋ぎみたいに指の間にしっかりと指を入れてきた。 「大丈夫だよ。ちゃんとここにいるから」  安心させるように、低く穏やかな声で囁かれる。  俺は目に涙を溜めながら、手に力を込めた。

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