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第4話 謝罪

「……あ」  ほぼ同時に声を出し、互いに驚きに満ちていた。  由井さんは、少し間を置いてからなにか言おうとしたので、その前に俺の方から切り出した。 「足立と一緒じゃないよ」  また間を置いて、ふふっと微笑まれる。 「まだなにも言ってないし。1人?」  俺も短く笑って頷いた。  てっきり睨まれるかと思ったのに。  冷たくされてもしょうがないと思ったが、意に反して優しい対応をされて嬉しくなる。 「由井さんは、細野さんと来たの?」 「ううん、私も1人。ちょっとね、資料集めに」 「へぇ……」  彼女の膝の上には何冊かの洋裁本があった。  見た目は結構派手なのに、裁縫なんてやるのか。  そのカラフルなネイルが施された小さな手で針やミシンをいじっている姿が、正直想像がつかない。 「意外だなって思ったでしょ」  自分の驚きは隠せていなかったみたいで、まさに思っていたことをそのまま口にされる。   「うん。そういうの好きなの?」 「まぁね。作った服をフリマに出品する時もあるよ」 「えっ凄い! ……あ」  静かに過ごす場所だというのに、大きい声を出してしまい、身を縮こませる。由井さんにくすくすと笑われた。 「ていうか、もう話してくれないかと思ってた」  そう言われて、え、と顔を上げた。  こっちのセリフだ。俺のこと、嫌いなはずなのに。  由井さんは立ち上がり、中に併設されているカフェの方を指さした。 「良かったらあそこ行かない? 私、花巻に話したいことがあるんだよね」  口調はいつも通り強めだけれど、態度は少し違う気がした。尖っていたものが丸みを帯びたような。  いいよ、と頷くと、由井さんはまた安堵したように笑って、本を借りに行った。  俺も荷物を持って由井さんの後について行く。  華奢な背中を見て、なんとなく、これまでのことを謝ろうとしてくれてるんじゃないかと思った。 「なんか、悪かったわね、色々と」  頼んだクリームソーダに視線を落としながら、由井さんは案の定、そう切り出してくれた。  上履きの件から1ヶ月くらいは経っている。  その時はムシャクシャして勢いでやったとしても、冷静になれば自己嫌悪に陥るってこともある。 「由井さん、前に足立に告白したって聞いたけど」 「うん。普通に振られたけどね」 「今も、足立が好きなの?」 「……まぁ、ね。でも足立にガツンと言われた時、もう嫌われたなって思ったから、前よりは気持ちがなくなってるのかも。で、今更だけど、花巻に色々と失礼なことしたなって思って。ほんと今更だけどさ……さーせんした」  わざとそんな言い方をして、照れくさそうに唇を尖らせて俯く由井さんを、素直に可愛いなと思う。  元々、友達という訳ではない。  俺のことなんて無視すればいいのに。  わざわざこうして頭を下げてくれたことに、由井さんの人となりを垣間見れた気がした。

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