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第5話 表現

「俺、由井さんとはじめて喋った時、苦手なタイプだなって思ったんだけど、今はそんなに思ってないよ」  正直に告白すると、目の前の人はさらにムッと口を尖らせてしまう。 「そういうこと、普通本人に直接言う? 花巻って変わってる」 「えっごめん、嫌だった?」 「嫌じゃないけど……私もあんたみたいなタイプは苦手だと思ってたけど、案外そうでもないみたい」  目と目を合わせて会話をするって、大事なんだなと改めて思う。  話してみないと分からないこともある。  見た目や周りの評価で人を判断してはいけない。  自分の目で見極めるべきなのだ。  足立のこともそうだった。俺には興味ないって勝手に思い込んでいた。そんなこと、決してなかったのに。 「足立のことは、どうして好きになったの? すごく格好いいから?」  俺の問いかけに、由井さんは「まぁね」と答える。 「もちろんそれもあるんだけど、足立だけだったから、私を叱ってくれた人って」  思いがけない言葉に瞠目(どうもく)した。  俺と同じだ。自分を叱ってくれた人は、足立だけだった。  テーブルに身を乗り出したい気持ちの俺に対し、彼女は少しだけ声のトーンを落とした。 「私さ、こう見えて結構ネガティブ思考発揮するときあるんだよね。周りの目が気になって、自信なくて、もう無理ってことがあると奈落の底に落とされた感じになって、這い上がってこれないの」  そんな風には全然見えない。  視線を落として自嘲する彼女の、新たな色を見つけた。  少しだけ沈んだ雰囲気を変えるように、由井さんは明るい声で続けた。 「大抵の人は、見て見ぬふりか、もうやめればって言ってくるんだけど、足立は『周りじゃなくて、自分がやりたいと思うことをやれよ』って言ってくれてさ。その言葉があるから、たまに怖くなる時もあるけど今も続けられてんの」 「続けるって、何を?」 「……あ、意味わかんないか。ちょっと待って」  そう言ってスマホを取り出し、写真を開いて画面を見せてきた。  そこに映っていたものは、コスプレ衣装を着て、可愛らしくポーズを決めている高校生くらいの女の子だった。巫女装束(しょうぞく)を身につけて、頭には狐のお面、髪の毛はブルーのロングヘアーで、手には刀を持っている。  次は女の子のドアップだ。  グリーンのカラーコンタクトを入れた瞳でこっちを見て、グロスで艶めいた唇をプクッとさせているのでドキッとする。  次は有名なバトルアニメに出てくる、セーラー服を来た女の子。次の写真はゴスロリっぽい、全身黒の衣装で、短いスカートにニーハイタイツを履いた女の子が出てきた。  数々の写真を見せられた俺はピンとくる。  「この服、由井さんが作ったんでしょ? すごいね! モデルさんに着てもらったの?」 「いや……これ、私なんだよね、全部」 「へぇ……えっ?! これ全部由井さんなの?!」  いくらカフェでは声を出していいとはいえ、素っ頓狂な声に周りの人も少しびっくりしている。  さっきはサラッと流した写真も、隅々までじっくり目を凝らした。  どう考えても由井さんには見えない。  化粧が濃かったり、ウィッグを付けているせいか全く分からなかった。

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