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第11話 嘆願
「あれは正直言って嫌だったけど……雄飛が心配だったから」
隠さずに本音を言う。
中2の頃だって、そんな風に笑っていたのだ。たぶん、心の中は傷ついているはずなのに、その上から蓋をして、中身は見て見ぬ振りをしている。蓋を取って中を綺麗にしないと、ずっと心は脆 いまま。
「俺のことなんて放っておけばいいのに。俺、あんなこと言うくらいにろくでもない奴だよ?」
「雄飛はしないでしょ。足立にわざわざ言うなんてこと」
「何でそうやって言い切れんの?」
だから、と少し苛立った声を出された。
「お前はダメなんだよ。何かあっても、何か言われても自分が悪い、雄飛はそんなことしない、自分が変わらなくちゃって。たまには人のせいにしてみろよ」
雄飛はそう言って、頭をガシガシとかいた。
話の趣旨がズレていた。
雄飛の痛みや苦しみを取り除きたいだけなのに。
「ごめん」
なんて返したらいいか分からず、謝るしかなかった。
顔を上げた雄飛は、じっと俺の顔を見る。しばらく何かを考えるように間をおいてから、「謝んなよ」と言われた。
「そうやって、史緒の傷付いた顔を見るのは嫌なはずなのに、俺はいつもそうさせちまうんだよな。なんだろう、これ。上手くいかなくて嫌になる」
もう1度顔を伏せた雄飛の肩に、俺はそっと触れてみた。ハグを自分からするのは躊躇 われたからだ。
そんなことない、大丈夫だという意味も込めて、手でゆっくりさすってあげた。
「何か言われちゃったの? 部内の人に」
小さく、かぶりを振られた。
じゃあ、先生と何かあった? と訊いてみても同じだった。
雄飛の口からは何も出てこないので、俺も何も言えなくなった。話したくないのに、無理やり引き出そうとしても困らせる。俺はしばらく無言で、慰めるように雄飛の肩をさすっていた。
出る杭は打たれる、という言葉がある。
雄飛は力がある分、他から憎まれたり、人から非難されたりすることが多いのだ。きっと何かあったんだ。
「──俺は力に、なれないかな」
俺は雄飛の好物を用意したり、何か気の利いた言葉をかけたりできないと思う。
ただそばにいて触れるだけ。話を聞くだけだったら、弱い自分にでも。
「何かしてくれんの? 俺の為に」
上目遣いで覗き込まれるようにされ、息がかかりそうな距離に焦りを感じる。
嫌でも、あの時のキスを彷彿とさせた。
そういった意味で言ったんじゃないけど……そう言う前に、低く囁かれた。
「じゃあ、足立のこと諦めろよ」
「……え」
「アイツと両想いになることなんて、空から蛙が降ってくるくらいに有り得ないことだと思うけど」
「蛙、って」
その例えにちょっとだけ、口の端が上がる。
これから先、自分の恋がどこに行き着くのか分からない。溢れる気持ちをいつか伝えてしまってこっぴどく振られ、気持ちを昇華させるのか。それとも周りにバレないように、ずっと気持ちを胸に秘めておくのか。
分からないけど、言われて簡単に諦めることは出来ない気がした。
もうこんなにも好きになってしまっている。だからいくら親友のお願いだとしても、簡単には頷けなかった。
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