65 / 94

第11話 嘆願

「あれは正直言って嫌だったけど……雄飛が心配だったから」  隠さずに本音を言う。  中2の頃だって、そんな風に笑っていたのだ。たぶん、心の中は傷ついているはずなのに、その上から蓋をして、中身は見て見ぬ振りをしている。蓋を取って中を綺麗にしないと、ずっと心は(もろ)いまま。 「俺のことなんて放っておけばいいのに。俺、あんなこと言うくらいにろくでもない奴だよ?」 「雄飛はしないでしょ。足立にわざわざ言うなんてこと」 「何でそうやって言い切れんの?」  だから、と少し苛立った声を出された。 「お前はダメなんだよ。何かあっても、何か言われても自分が悪い、雄飛はそんなことしない、自分が変わらなくちゃって。たまには人のせいにしてみろよ」  雄飛はそう言って、頭をガシガシとかいた。  話の趣旨がズレていた。  雄飛の痛みや苦しみを取り除きたいだけなのに。 「ごめん」  なんて返したらいいか分からず、謝るしかなかった。  顔を上げた雄飛は、じっと俺の顔を見る。しばらく何かを考えるように間をおいてから、「謝んなよ」と言われた。 「そうやって、史緒の傷付いた顔を見るのは嫌なはずなのに、俺はいつもそうさせちまうんだよな。なんだろう、これ。上手くいかなくて嫌になる」  もう1度顔を伏せた雄飛の肩に、俺はそっと触れてみた。ハグを自分からするのは躊躇(ためら)われたからだ。  そんなことない、大丈夫だという意味も込めて、手でゆっくりさすってあげた。 「何か言われちゃったの? 部内の人に」  小さく、かぶりを振られた。  じゃあ、先生と何かあった? と訊いてみても同じだった。  雄飛の口からは何も出てこないので、俺も何も言えなくなった。話したくないのに、無理やり引き出そうとしても困らせる。俺はしばらく無言で、慰めるように雄飛の肩をさすっていた。  出る杭は打たれる、という言葉がある。  雄飛は力がある分、他から憎まれたり、人から非難されたりすることが多いのだ。きっと何かあったんだ。 「──俺は力に、なれないかな」  俺は雄飛の好物を用意したり、何か気の利いた言葉をかけたりできないと思う。  ただそばにいて触れるだけ。話を聞くだけだったら、弱い自分にでも。   「何かしてくれんの? 俺の為に」  上目遣いで覗き込まれるようにされ、息がかかりそうな距離に焦りを感じる。  嫌でも、あの時のキスを彷彿とさせた。  そういった意味で言ったんじゃないけど……そう言う前に、低く囁かれた。 「じゃあ、足立のこと諦めろよ」 「……え」 「アイツと両想いになることなんて、空から蛙が降ってくるくらいに有り得ないことだと思うけど」 「蛙、って」  その例えにちょっとだけ、口の端が上がる。  これから先、自分の恋がどこに行き着くのか分からない。溢れる気持ちをいつか伝えてしまってこっぴどく振られ、気持ちを昇華させるのか。それとも周りにバレないように、ずっと気持ちを胸に秘めておくのか。  分からないけど、言われて簡単に諦めることは出来ない気がした。  もうこんなにも好きになってしまっている。だからいくら親友のお願いだとしても、簡単には頷けなかった。

ともだちにシェアしよう!