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第12話 本音

「そんなの知ってるよ。足立、ちゃんと付き合ってる人いるし」 「え、じゃあ噂って本当なのか。年上の……」 「性別は知らないけど、恋人がいるのは本当。それに俺、足立と両想いになりたいから好きでいるわけじゃないよ」  仲良くなって、2人でいるのが楽しくて。  自分が例え必要とされていなくても、足立が康二さんといて幸せならそれでいいと思う。 「じゃあ、何で好きでいんの」 「ダメなの? ただ好きでいたら」 「独占欲が出てくるだろ。相手と別れて、自分を見て欲しいとか。欲が嫉妬を引き起こして傷付いて、そういうのが無駄だからやめろって」 「ねぇそんなことより、今は雄飛の話を聞きたいんだよ」  いつの間にか声が大きくなっていた。  また、無言になる。  しばらくしたらドアがノックされた。おばさんが気遣わしげにドアを細く開けて顔を覗かせる。 「史緒くん、さっきお母さんから連絡があって、今日も遅くなりそうだって。このまま泊まっていったら? 私から連絡しておくから」  不穏な空気がほんの少しだけ和らぐ。  雄飛と顔を見合わせた後で、俺はおばさんに向かって小さく頷いた。  ドアが閉められた後、心の中でため息を吐く。さっきから話の矛先が俺に向かっている。本当は雄飛の話をしたいのに。  気分を変えるため、視線を窓の外に向けた。いつの間にか日が落ちて、予報通り小雨が降り始めていた。 「泊まるんなら、風呂入るよな」  言われた訳でもないのに、雄飛は風呂掃除してくると言って部屋を出ていってしまった。けれど一旦冷静になりたかったので、そうしてくれて少し助かった。  どうして、好きな人も制限されなくちゃならないんだろう。  雄飛だって、由井さんほどじゃないけど今まで何人かの女子と付き合ってきた。すぐ別れてたみたいだけど、俺は毎回、心から祝福したのに。  雄飛は俺が飛び立とうとするのを引き止めてくる。引き止める時、いつも辛そうな顔をしている。  部屋に戻って、着替えを渡してきた雄飛は一転、笑顔だった。 「お前が心配しなくても、俺、本当に大丈夫だから。ちゃんとまた部活行くよ」 「本当?」  余裕の笑みで頷かれる。  無理をしている気もするけど、真意は分からなかった。  風呂には順番に入ることになった。  俺が先に入り、雄飛がその後で入ったのだが、随分と時間を掛けていて、わざとそうしているのだと思った。2時間ほどで戻ってきた雄飛に、「もう寝よう」と決定事項のように言われたので、大人しく敷かれた布団に潜り込むしかなかった。  暗闇が苦手な俺に配慮して電気スタンドの灯りを灯したまま、雄飛はベッドから俺を見下ろしてくる。 「おやすみ」  そう言って、壁の方を向いて#横臥__おうが__#した雄飛の背中を見つめたあと、俺も横向きになって目を閉じた。  なかなか寝付けずに何度も寝返りを打っていたけど、いつの間にか眠りについていた。  だけどそれは浅い眠りで、すぐに目覚めてしまう。何か夢を見ていた気がするが覚えていない。  時間を確認しようと、スマホを光らせた時、ベッドの上で息を大きく吸って吐く、という音が聴こえてきて息をのんだ。  ぼんやりとした人影が、徐々に輪郭をあらわしていく。  雄飛は泣いていた。声を殺して、体を震わせている。 「どうしたの」  膝立ちになり、ベッドの側へいく。  その広い背中を触ると、雄飛はますます瞳から涙を零した。 「なんで、俺ばっかり」  奥歯同士を強く噛み締めたような表情だった。  戸惑いながら、俺は懸命に背中を手でさすることだけしか出来なかった。

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