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第13話 所望
それからしばらく雄飛は、体の水分を全部出し切るくらいに泣き続けていた。
薄暗い部屋に灯る小さなライトが、自分たちの横顔を照らしている。
雄飛の泣き顔なんて久しぶりに見た。
中2の時だって、哀しい顔はしていたが涙は出さなかったのだ。
しばらくして半身を起き上がらせた雄飛はあぐらをかいて、複雑そうな笑顔を見せた。
「悪いな、変なところ見せて」
ううん、と首を横に振ると、雄飛は腫れた目をさせながら思いを吐露していった。1年生と3年生からの圧力にキャパオーバーになったらしい。2年生は不真面目な生徒が数名いて部活をサボるのもしょっちゅうらしく、上からはやる気がないなら辞めさせろと言われたり、下からは早くなんとかしてくださいと言われたり。
頼りにできるからこそ、周りは必要以上に雄飛に責任を負わせようとするみたいだ。
「あ、グループメールで俺のこと貶 してましたよって、わざわざ密告してきたバカもいたな。そんなの、俺に直接言ってどうすんだよって」
ほんの少しだけ笑って、雄飛は項垂れる。
雄飛は器用だと見せかけて不器用だ。
1人で抱え込まず、もっと周りに助けを求めてもいいのに。
「誰かに相談しないの?」
「したところで、頑張れよって言われるのがオチだろ」
「でも、このままだと雄飛が壊れちゃうよ」
「もう大丈夫だよ。今吐き出したし」
「……雄飛はいつも、頑張りすぎなんだよ」
0か100って決めないで、もっと肩の力を抜いて気楽に。
そう慰めたつもりだったのに、返ってきたのは低く呆れた声だった。
「お前はいいよな。人の上に立つことなんてないから、責任負わなくていいし。こんなので悩んだことないから、気持ち分かんねぇだろ」
何も言えずに黙り込むと、我に返った雄飛が頭を下げた。
「違う。今のは忘れて」
「いいよ、たぶん本当のことだし……壁だと思って、全部ぶつけちゃいなよ」
「壁って……ヤダよ、史緒が可哀想だろ」
「じゃあ、ハグする?」
暗い部屋の中でじっと見つめられて、自分からそう切り出すべきではなかったかと後悔した。
「おしまいにするんじゃなかったっけ?」
「それはキスの話で……ハグは、その……寂しい心を埋めるためにずっとしてきたことだし」
足立の顔が頭に浮かぶと、後ろめたい気持ちになるのは事実だ。だけどこれで、雄飛が安心してくれるんだったら。それくらいしか、自分に出来ることはないから。
「史緒がいいんだったら、して欲しい」
立ち上がり、ベッドに片膝をのせると、両手が差し出された。おいで、と言われているみたいだった。その胸の中に顔を横向きにしてぴったりとくっつけて背中を撫でた。
とくとくと、2人分の心臓の音が重なる。冷房はついているのに、泣いたせいかその体が熱い気がした。
こんなに頑張っているのに、こんなに繊細な人なのに、あんなことをするなんてやはり信じられなかった。
なんだかほっと、肩の荷が降りた気がする。
(雄飛じゃない)
由井さんが言ってたように、軽い感じで訊いてみて、実は少し疑ったんだ、ごめんって謝ればいいんだ。
「雄飛じゃないよね。俺の上履きにいたずらしたの」
そう言うと、背中に回っている腕に、だんだんと力が込められた。
薄いTシャツの布ごと握りしめるように、背中で拳を作られたのを感じた。
俺の気持ちが落ち着かなくなってくる。
嘘だ、だってあんな風に凛とした顔で、犯人探しを手伝ってやるって。
違う、と俺は呟いた。
「違うよね。絶対雄飛じゃないよね?」
違うよと言って欲しかったのに、いつまでも俺の欲しい言葉は聞けなかった。
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