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第4話 暴露

 冗談で言っているのだと、本気で思った。  だって足立が俺を好きだなんて、空から蛙が降ってくるくらいにありえないのに。  あぁそうか、と思い立ち、グラスを置いて柔らかく笑んで見せた。   「もしかして、あの時勢いでキスしちゃったから、そういうことにしないとって、責任感じてる?」 「え……? そんなこと思ってないよ、あれは史緒が怖がってたから、なんとかしたいって思って咄嗟にしちゃったけど……好きじゃなかったら、あんなことしないよ」 「だって、康二さんと付き合ってるでしょ?」  冗談で誤魔化すくらいなら、ハッキリと『康二には言わないでほしい』と言ってくれた方がまだ良かった。そうしたら俺も、キスのことは誰にも内緒にしておくのに。 「付き合ってないよ。まさか史緒も、一時期広まった噂を本気にしてたの?」 「え……だって足立、康二さんと仲良くしてるし」 「それは友達だから。康二と付き合いたいだなんて、考えたこともないよ」 「そ、そうなの?」  子供の頃からずっと、想い続けている人がいる、だからやめておけ。そう康二さんに言われた。  足立の想い人は、俺のことだったのだろうか。  康二さんの言葉は、からかいのつもりだったのだろうか。 「好きだったから覚えてたんだ、史緒のこと」  1点の曇りのない眼差しに耐えきれなくなった俺は視線を外し、弱ったガーベラの花を見つめた。  胸が締め付けられる程に痛くなって、制服のズボンをぎゅっと握った。今にも泣き出しそうになるのをグッと堪えようとすると、全身が強ばり、眉根が寄ってしまう。 「ほん……とうに?」 「うん。史緒にはもう嫌われたんだって思った。あんな風に身勝手なキスをして、挙句には史緒をあんな風に泣かせちゃって……言うべきじゃないかもって悩んだけど、やっぱり隠せなかった」 「どうして、俺なんかのこと……」  あ、と思い、視線を足立に合わせた。  俺なんか、という言葉は良くないことだと教えてくれたのはこの人だ。怒られるかと思ったが、それに対してはスルーだった。   「どうして好きになったのか、明確に言えないけど……普通はそんなもんじゃないの? 可愛いなとか、この人なら自分を分かってくれそうだなとか、そういう陽の気持ちが少しずつ積み重なって好きになっていったんだと思う」  上手く言えないけど、とにかく好きなんだ。そう言われた。心の柔らかい部分にその言葉がそっと触れて徐々に膨らんでいき、溺れてしまいそうになった。  恋する気持ちは繋がっていた。それは奇跡のようなことなのに。  ──こんなことって。   「足立、おれ」  俺も好き、と伝えたかった。  だけど言えないことなのは、分かりきっていた。  足立の特別な感情に全く気付かなかった。不甲斐なさから、また涙が込み上げてきて、目の周りも熱くなってくる。  全部、全部自分がまいた種なのに。 「史緒……」  戸惑っている声色だった。  それはそうだ。告白をした相手が急に、ポロポロと大粒の涙を零し始めたのだから。  堪えられなかった。瞬きする度に雫が周りに弾ける。  違う、こんなの。俺が、泣くようなことじゃない。  こちらに伸ばした手を、(すんで)のところで引き戻した足立は、代わりに凛とした言葉をこちらに寄越した。 「混乱させちゃってごめん。付き合って欲しいとか、そういう訳じゃないから。ただ気持ちを伝えたかっただけなんだ。史緒が良ければ、これからも友達として変わらず、仲良くして欲しい」 「俺、雄飛とキスしてた。これまで、何度も」  ──いいことと悪いことは、いつも同時にやってくる。  俺はそうして、肝に免じていたはずなのに。  俺の好きな人は何かを考えているようだけど、どう思ったのかは分からない。ただジッと、俺の顔を見ている。  俺は殊更ゆっくりと告解した。 「ハグもして、キスもして……それ以上のことも、した」

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