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【7】第1話 告白
3人で、ガラスの破片の後片付けをし、穴が空いた窓ガラスには新聞紙をガムテープで貼り付けて応急処置をした。
テラコッタのオリーブの木は見るも無惨な姿になっていて、本当に大変なことをしてしまったと、悔やんでも悔やみきれない気持ちでソファーに座った俺は項垂れた。
「すみません……全部、弁償します……」
か細い声は届いたのか届いていないのか、ほうきとちりとりで窓際を掃除する康二さんはブツブツと独り言を呟いていた。
「いや、ほんともう、まさか窓割るだなんて思わないじゃん?」
俺の斜め向かいに座る足立は、恥ずかしくて俯く俺を怒るわけでもなく、ただ静かにじっと見つめていた。
どうして来たのか、なぜこんなことになったのか、分からないことだらけで頭が混乱しているのかもしれない。
「恭太郎の父親はいつ帰ってくるの?」
片付けが終わった康二さんはため息を吐いて、俺の向かいのソファーにどかっと腰を下ろして脱力した。心身ともに疲れたのだろう。
「分からない。来週か、再来週」
「えーっ、どうするのこれ。連絡しとく?」
「うん、適当に言っておく。風で物が飛んできたとか言って」
顔をはね上げた俺は咄嗟に首を横に振った。
「俺が割ったんだって、俺からお父さんに言うよ」
「ううん。本当に大丈夫。窓の1枚くらい、どうでもいいよ」
ここで初めて、足立と真っ直ぐに視線が絡み合った。
久しぶりに目が合って泣きそうになる。
この優しい目が、ずっと好きだった。
ふ、と口だけで笑った足立は視線を逸らし、細めた瞳を康二さんへ向けた。
「そもそも、悪いのは康二だし」
「えっ! 僕が何をしたっていうの!」
「しただろ。急に顔を近付けて、ソファーに押し倒したりするから史緒だって仕方なく……」
「へぇ? それってまるで、史緒ちゃんは自分のことを好きだからだ、みたいな言い方だね」
「……別に、そういう訳じゃ」
バツが悪そうに唇を尖らせ、足立は頭をかいた。
気のせいかもしれないが、足立はさっきから時折、俺がしでかした事件について怒るどころか、なぜかそうなったことが嬉しいみたいな表情をするのだ。普通、自分の家の窓ガラスが割られたらもっと戸惑うはずなのに、どうでもいいと言われたし。
「まぁ、恭太郎の思う通りだと思うけどね。僕が許せなくて、こんなことしちゃったんでしょう?」
「はい」
窓ガラスを割るのは間違っていたかもしれないが、この感情に間違いはなかった。
強い意志を持って頷くと、康二さんは珍しいものを見つけたみたいに軽く笑って首を傾げた。
「さっき車の中で話した史緒ちゃんじゃないみたい。この短時間でどういう心境の変化?」
「さっきは言えなかったけど、俺、やっぱり康二さんに足立を取られたくない」
足立は息をのんだ。何かを言いたげに軽く前のめりになったが、結局何も言わぬまま俺のことを見ていた。
「俺は足立が好きです。だから俺が……、足立の、隣にいたいです……」
康二さんはもうすでに、足立に告白をしたのだろう。そして足立はきっと、その告白を受け入れた。だから牽制のために、あぁして足立をソファーに押し倒したんだ。
一足遅かったのかもしれない。
けれどせめて、自分の気持ちを素直に伝えるくらいは許して欲しかった。足立と1度は同じ意味の好き同士になれたことは事実なのだから。
「本当に?」
信じ難いというような声音でそう訊ねたのは足立だった。
俺は項垂れていた顔を上げ、ゆっくりと顔を縦に振った。
「史緒、俺のことが好きなの?」
「……うん」
「……嘘みたい」
足立は安堵したように、ほっと息を吐いた。
緊張が一気に解けたように、背もたれに背中を付けてズルズルと体をすべらせている。
「という訳だから康二、もう帰って」
「うわ、何それ! 不義理すぎでしょ!」
「悪ふざけしすぎなんだよ。なんだよ、雷だから一緒にいてあげるって勝手に家に来たかと思ったら、急に『ちょっとごめんね』とか言って俺を押し倒して」
帰れとか、ふざけてるとか言われている康二さんに違和感を感じた。
告白の話はどうなったのだろう。
思い切って訊いてみると、足立はキョトンとした表情のまま、康二さんに向き直った。
「何? 告白って」
「んー? 実は史緒ちゃんに言ってからここに来たんだよね。恭太郎に告白しようと思ってるって」
「はぁ?」
眉根を寄せた足立は呆れたように言って、俺に説得するように静かに告げた。
「史緒、そんなの真に受けないでよ。康二、結婚してるって言わなかったっけ?」
「えっ?」
そんなの聞いてない、と顔をブンブン横に振ると、ごめん、と謝られた。
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