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第3話
男は、ゆっくりと顔を上げた。優真の呼びかけに答えるでもなく、ひたすらこちらを凝視している。決まり悪くなり、優真はあわてて言葉を探した。
「来てくださって、ありがとうございます。……すごいですね、本当にそれらしく演じてくださって」
男がまとっているスーツや、袖口からのぞく腕時計は、いかにもヤクザが身に着けそうな高級ブランド風だった。フェイクだろうが、そのサービス精神には頭が下がる。
「……あの、お客様?」
そこへ、店主らしき中年女性がやって来た。おびえたような顔をしている。きっと、男の風貌のせいだろう。安心させようと、優真は彼女に向かって微笑みかけた。
「この方、僕の待ち合わせ相手なんです。トラブル解決のためにこういう格好をしてくださってるだけなので、怖くないですよ?」
「いや、ええと……」
女店主は、なおも腑に落ちなさそうな顔をしている。すると、男が初めて口を開いた。
「ああ、その通りだ。話は外で聞こう。じゃあ、勘定を頼むぜ」
渋い低音だった。言いながら男は、早くも煙草の火を消し、席を立っている。優真は、急いで後に続いたのだった。
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