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第5話
(嘘だよな? 演劇やってたって言ってたし、特殊メイクか何かか?)
「あの……」
「この部屋だな?」
優真の問いかけをさえぎって、男は騒音主の部屋をにらみつける。フロアには一戸しか部屋が無いのだから、一目瞭然だ。
「はい、でも……」
ちょっと待ってくれ、という優真の思いは、言葉にならなかった。男が、その部屋のドアを、勢いよく蹴り飛ばしたのだ。演技だとわかっていても、優真は震え上がった。
「うっせえなあ。何だよ……」
すさまじい音に驚いたのか、騒音主はすぐにドアを開けた。男を見た彼は、一瞬おびえた表情を浮かべたものの、虚勢を張るように顎を突き出した。
「昼寝してんだから、邪魔すんじゃねえよ」
そのとたん、男の眼差しは険しくなった。
「他人を不眠症にさせておいて、てめえは昼寝だあ? ふざけんじゃねえぞ」
言葉と同時に、男が騒音主の胸ぐらをつかむ。突然の暴挙に、優真は焦った。
「ちょっ……、ちょっと、暴力は止めてください!」
優真が押しとどめようとすると、男は渋い顔をした。
「お前は上で待ってろ」
「そういうわけにはいきません!」
無性に嫌な予感がする。男は、騒音主の体を持ち上げるようにして、強引に室内へ押し込んだ。優真は、かろうじて付いて入った。狭い玄関は、男三人が入ればいっぱいだ。
「上の兄ちゃんと……。おっさんは? あんた、誰なんだよ」
さっぱり事情が飲み込めないといった様子で、騒音主が優真と男を見比べる。そのとたん男は、彼の腕をねじり上げた。痛い痛い、と悲鳴が上がる。
「人に名前を尋ねる時は、自分が先に名乗るのが筋だろうが、あ?」
地を這うような低い声だった。恐れをなしたのか、騒音主は小さくつぶやいた。
「ヤマシタトモヤ、です……」
へえ、と優真は感心した。当然ながら引っ越しの挨拶など無かったため、ずっと名前がわからなかったのだ。とはいえ、これ以上暴走する前に、男を止めなければいけない。
「あの、もうその辺で……」
勇気を出して、男の腕に手をかけようとしたその時、驚くべきことが起きた。男は、ヤマシタを捕らえたまま、空いた手で優真を抱き寄せたのだ。
「おい、ガキ。俺のイロを苦しめた落とし前は、きっちり付けてもらうからな!」
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