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第6話

「――ええええ!?」  数秒の後、意味を理解した優真は、目をむいた。聞き違いだろうか。確かに今、『俺のイロ』と聞こえた気がするのだが。  だが、聞き間違いでなかったことは、鳩が豆鉄砲を食ったようなヤマシタの表情からも明らかだった。当然だろう。どう見ても男性である優真を、この男はイロと称したのだから。 「――イロ?」  ヤマシタが、呆然と繰り返す。すると男は、優真を放すと、今度はヤマシタの耳をつねり上げた。 「てめえの耳は飾り物か? こいつはな、月城(つきしろ)組組長のイロだってんだよ。よくも、可愛いこいつを不眠症にしてくれたな? 治療費と慰謝料として、五百万用意しやがれ!」 (何だって!?)  月城組といえば、古い歴史を持つ巨大な指定暴力団だ。莫大な構成員数と資金力で、関東圏では一、二の勢力を誇っている。この国の人間なら、知らない者はいないだろう。 (小指の件といい、まさか……)  優真がおろおろしていると、ヤマシタが裏返った声を上げた。 「ご、五百万!? そんな金……」 「払えないってんじゃねえだろうな?」  男がヤマシタの襟首をつかみ、壁に押し付ける。喉元に手をかけられて、ヤマシタはぐえっと蛙のような声を上げた。 「無けりゃ作れ。そうだな、腎臓か角膜でも売れば……」  「あのあの、本当に、止めてください!」  今度こそ勇気を振り絞った優真は、男にすがりついた。男の表情が、ふと緩む。 「こんな虫ケラに情けをかけようってのか? 優しい奴だな、お前は……」 言葉と同時に、頬をスッと撫でられる。言動とは裏腹に、その仕草は意外にも優しかった。まるで本物の愛人として扱われているようで、優真はドキリとした。

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