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第12話
(いよいよか……って、あれ?)
優真の目は点になった。なぜか彼は、トレイを手にしていたのだ。白飯と、数種類の総菜が載っている。
「夕飯、まだだろう。腹が減ったんじゃないか?」
「あ……、ありがとうございます」
優真は、気が抜けるのを感じた。てっきり、このソファに押し倒されるものと覚悟していたからだ。
「これ……、もしかして、氷室さんが?」
誰かが運んで来た気配は無かった。まさかと思ったが、氷室はあっさり頷いた。
「ああ。大した物じゃないがな」
とんでもない謙遜だ、と優真は思った。イカと里芋の煮物、白和え……。手の込んだ和総菜ばかりである。
緊張でそれどころではなかったが、確かに空腹だ。優真はおそるおそる、煮物を口に運んだ。予想以上の美味しさだった。味付けは上品で繊細で、どこか家庭的な感じがする。この強面の男から生み出されたとは、とても思えなかった。
「美味いか」
氷室が尋ねる。優真はあわてて、はい、と答えた。
「何だか、あの商店街のお惣菜屋さんの味に似てますね」
すると氷室は、ふっと微笑んだ。
「そうか。実は、似せてみたんだ」
「……どうして?」
「好きだ、と言ってたじゃねえか。お気に入りなんだろう?」
よく覚えていたな、と優真は感嘆した。
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