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第14話

 あれこれ考えていると、氷室は片眉を上げた。 「まあ、俺の話はいい。早く食え。冷める」 「あ、はい……」  優真は、食事を再開した。その横で氷室は、黙って煙草をふかしている。 「ご馳走様で……」    夢中で食べ終えた後、礼を言おうと氷室の方を向き直って、優真はドキリとした。彼は、笑みを浮かべて優真を見つめていたのである。食べている間中見られていたのか、とカッと顔が熱くなる。 「……何ですか」 「いや、美味そうに食うな、と思って」 「それは、本当に美味しかったから……」  優真の言葉は、そこで途切れた。氷室に、唇を塞がれたのだ。煙草の香りが、鼻腔をくすぐる。 「なっ……、何するんですか!」  押しのければ、氷室は案外素直に解放してくれた。  だが、ほっとしたのも束の間だった。強い力で引っ張り寄せられたのだ。不意打ちに呆然としている優真の体を、氷室は米俵でも運ぶように肩に担いだ。そのまま立ち上がり、すたすた歩き出す。 「下ろしてください!」  優真はわめいた。 「どうして。飯は済んだ。食欲を満たした後に満たすべきものといったら、一つだろう」  隣の部屋に続くドアを、氷室は足で開けた。彼の寝室らしく、モノトーンで統一された室内には、大きめのダブルベッドが置かれていた。その上に、どさりと下ろされる。 「あ、あの! やっぱり、止めてください」 どうにか身を起こしながら、優真は必死に訴えた。 「お金なら、払いますから。いっぺんには無理ですけど、分割で……」 「却下。一括以外は認めない」  氷室は、無情にも答えた。 「約束したよな? 金が払えないなら、体で払うって」  ギシリ、と音を立てて、氷室がベッドに膝を突く。優真は、反射的に後ずさりした。約束したというより、無理やり連れて来られたのだが。そう言い返す勇気は無かった。 「男は初めてか?」  男がどうの以前に、優真は童貞である。引っ込み思案な性格が災いしてか、女性とはキス以上に進めなかった。真っ赤になって硬直していると、氷室は表情を和らげた。 「安心しろ。優しくしてやる」  再び、口づけられる。先ほどとは打って変わった、深いキスだった。氷室のぶ厚い舌が歯列をなぞり、舌に絡みつき、口内のあちこちをまさぐる。経験の少ない優真にもわかるほどの、巧みなテクニックだった。

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